著者
米道 学
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

(目的)千葉県房総半島にはヒメコマツが天然に隔離分布する。この個体群は最終氷期後に局所的に残った遺存分布と考えられ大変貴重であるが、1970年以降マツ材線虫病等で急激に個体数を減少させている。1977年以降の枯死個体からマツノザイセンチュウが確認された。以上からマツ材線虫病が主要因であることが指摘されたため、現存する天然木からクローン増殖等で系統保存を行なっている。今後、保護・回復計画に基づき系統保存個体の自生地への補植の可能性が出てきた。その際には、マツ材線虫病抵抗性個体を植栽することが望ましい。本研究では、両親が明らかな人工交配実生苗や自殖の可能性が高い実生苗について材線虫接種試験により抵抗性の程度を確認し、実生苗における家系と抵抗性との関連性を明らかにする。(方法)。房総丘陵の自生個体は互いに孤立しており、花粉流動が少ないため自殖個体が多いことが報告されている。そこで、接種に用いる個体は人工交配苗(9通りの組み合わせ(自殖が1家系))と天然個体(4家系)・集植所(3家系)からの自然交配個体を用いた。人工交配は雌親を集植所木個体、花粉親を天然個体とした。接種試験は7月に行い、強病原性材線虫(ka-4)を5000頭/本を接種した。比較対照としてアカマツとクロマツの抵抗性苗および未選抜苗についても同様の接種を行い、接種試験の有効性を確認した。(結果と考察)ヒメコマツにおける生存率は人工交配個体50~100%で自殖個体が33%であった。自然交配個体では、天然個体群0~100%、集植所個体39~100%であった。人工交配個体のバラツキが少なく抵抗性が安定していた。アカマツ、クロマツにおける生存率は抵抗性個体群85~100%、未選抜個体群が19~40%でありヒメコマツ個体群の材線虫抵抗性は抵抗性個体群より弱く未選抜個体群より強いと示唆された。自殖の生存率は人工交配個体中で最も低く、自殖による抵抗性の低下が疑わられた。さらに天然個体でも生存率0%の個体群もあり花粉流動の悪さからくる自殖の可能性も示唆された。今後、生存個体を抵抗性個体母樹としてヒメコマツによるマツ材線虫選抜育種を検討したい。また、今回の結果からマツ材線虫抵抗性個体の理想的な組合せが示され今後の抵抗性個体創造の参考としたい。
著者
米道 学
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

(目的)房総半島には他の地域から隔離されたヒメコマツ個体群が分布されているが1970年以降マツ材線虫病によってよって急激に個体数を減少させている。1960年代には房総半島には10,000本以上のヒメコマツが生存していたと推定されているがマツ材線虫病等により現在100本以下となった。生存個体はある程度マツ材線虫病に抵抗性を持つ可能性がある。千葉演習林では、保全の一環として実生と接ぎ木による増殖を行っている。今回、実生苗木でマツ材線虫を接種して材線虫抵抗性の検証を行った。また、接ぎ木の成功率が高くないことから挿し木による増殖を試みた。(方法)人工林由来の前沢6号(9本)・前沢9号(17本)・天然林由来の西ノ沢7号(31本)の実生苗木(3家系)で強病原力材線虫(Ka-4)を接種(5,000頭/本)した。対照として千葉演習林抵抗性アカマツ実生苗木(1家系20本)・感受性アカマツ苗木(1家系19本)にも同様に接種を行った。挿し木は、実生苗木の2家系(各40本合計80本)と接木クローン1家系(20本)で行った。挿し床はプランターに鹿沼土を敷き床とした。全プランターはビニール袋に入れて密閉状態とした。密閉状態のプランターの置き場所はビニールハウス内とした。プランターの半分で温床マット(実生各20本合計40本・接木各10本)を敷き半分を露地(実生各20本合計40本・接木10本)とした。さし穂は全て発根促進のためIBA0.4%を5秒間浸漬した。(結果と考察)材線虫を接種した人工林由来(2家系)の枯死率35~56%、天然林由来(1家系)の枯死率の枯死率が55%で対照として接種した抵抗性アカマツの15%より高く感受性アカマツ74%より低い結果となった。ヒメコマツ苗木の抵抗性は抵抗性アカマツと感受性アカマツの中間程度の抵抗性が示唆された。今後、家系数を増やして接種を行い抵抗性の検証をする必要性があろう。挿し木では接木の穂を挿し付けた個体では発根が無く、実生由来の穂を挿し付けた2家系で発根が確認されたが、大半が枯死していた。発根率が温床有りで30~35%、露地で35~45%であった。今回の発根率からヒメコマツの挿し木は可能であろうが、苗の大半が枯死したことから発根後の養苗が課題となった。