著者
粟崎 健
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

完全変態昆虫であるショウジョウバエの脳神経系では、変態期において神経細胞は死なずにその神経回路のみをダイナミックに再編成していることが知られている。本研究では、こうした神経回路の再編成と一酸化酸素シグナルの関係に注目して、その関連の解明をめざした。本年度実施した研究により、以下のことが明らかになった。1)変態期6時間目より幼虫シナプスの崩壊がはじまり、変態期24時間目までに脳全体のほとんどのシナプスが失われる。2)ショウジョウバエ脳には4つの一酸化窒素を産生する神経分泌細胞が存在しており、これらの細胞は神経線維を脳本体のニューロピル全体、ならびに胸腹部神経節に沿って伸長させている。3)一酸化窒素産生神経細胞の神経線維上には一酸化窒素産生酵素を集積したこぶ上の構造体が散在している。4)変態期に入ると一酸化窒素産生神経細胞の神経線維上にある、一酸化窒素産生酵素を集積したこぶ上構造体が著しく減少する。5)変態期に入っても、脳中枢神経系の細胞は一酸化窒素に対する応答性を維持し続ける。以上は、一酸化窒素産生能の低下と幼虫神経回路の崩壊が関連していることを示唆した。さらに、この関連を薬理的に調べるために、培養により幼虫キノコ体神経回路の崩壊を解析できる系を構築した。また、一酸化窒素産生酵素をコードする遺伝子を細胞特異的にノックダウンする系ならびに、一酸化窒素産生神経細胞を除去する系を構築した。