著者
粟村 倫久
出版者
三田図書館・情報学会
雑誌
Library and information science (ISSN:03734447)
巻号頁・発行日
no.62, pp.29-80, 2009

【目的と方法】本研究の目的は,Elfreda A. Chatman の研究視点が情報利用研究に持つ意義を明らかにすることである。本研究は,理論形成期と理論提示期に分けて,Chatman の研究を理解することを試みる。まず,理論形成期の彼女の研究の論点整理を行う。その理解に基づいて,提示された理論の統合的解釈を行う。そのうえで,彼女の研究視点の展開の方向性を考察する。【結果】理論形成期のChatman は,貧困者たちが周囲の対人関係を無制限に利用するのではなく,むしろその関係の維持を常に気にしながら情報探索・利用を行っているという発見に,最終的に到達した。この発見は,情報貧困,そして貧困者の情報探索・利用に対する彼女の視点を,転換に導いた。Chatmanは,理論の中で,彼女の新たな情報探索・利用理解を提示した。この理解は,それ以前の情報利用研究とは異なり,「当たり前の,問題のない生活」の維持の一部としての情報探索・利用に焦点を当てる,という独自のものであった。この理解は,相互主観性,そして情報探索・利用と社会の間の相互反映性を扱えるという意味で,情報利用研究に理論的貢献をなした。このことが,彼女の研究視点の一つの意義である。理論以外のChatman の研究視点の意義として,三つの今後の研究の展開の方向性を導くことができる。一つ目の方向性は,特に組織体の情報探索・利用を扱う形で,分析対象を拡大することである。二つ目の方向性は,知識の維持・利用を描くにとどまった彼女の研究を超えて,知識の作成・修正プロセスを探究することである。三つ目の方向性は,状況と情報探索・利用の相互関係のより詳細な探究である。原著論文