著者
粟生田 佳奈子 河内 満彦 菅原 準二 梅森 美嘉子 三谷 英夫
出版者
日本矯正歯科学会
雑誌
日本矯正歯科学会雑誌 (ISSN:0021454X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.387-396, 1996-10
被引用文献数
7

外科的矯正治療前後における成人骨格性反対咬合症患者の発音機能を評価する目的で, 発音時の舌接触パターン, 顎運動, および発声音の解析を横断的資料を用いて行った.研究対象は初診時に外科的矯正治療を要すると診断された成人骨格性反対咬合症患者38例(非開咬-術前群20例, 開咬-術前群18例)および治療後2年以上経過した患者31例(非開咬-術後群16例, 開咬-術後群15例)である.対照群には正常咬合者13例(正常咬合群)を用いた.結果は以下の通りであった.1. 術前および術後の反対咬合症患者では, 発音時における舌の口蓋への接触部位は正常咬合群より前方位を示していた.顎運動経路は, 非開咬-術前群では後方位を, 開咬-術前群では上方位を示した.一方, 術後では両群とも正常咬合群に類似したパターンを示す傾向が認められた.顎運動距離については, 各群間に有意差はみられなかった.2. 日本語としての"自然らしさ"については, 両術前群は正常咬合群に劣るといえた."自然らしさ"は術後に改善の傾向がみられたが, 依然として正常咬合群より劣っていた.3. スペクトル分析については各群間で差が認められなかった.以上の結果から, 外科的矯正治療は成人骨格性反対咬合症患者の発音機能の向上に寄与する可能性があるものと思われた.しかし, 術後群と正常咬合群とを比較した場合では, 術後群の音質は依然として劣っていた.このことは発音機能に関わる神経筋機構の恒常性は形態改善に速やかに順応するものではないことを示唆しているものと考えられた.