著者
石川 博康 糟谷 昌志
出版者
日本臨床倫理学会
雑誌
臨床倫理 (ISSN:21876134)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.38-44, 2017 (Released:2021-07-12)
参考文献数
9

本邦の健康保険制度は,第三者行為により生じた傷病に対して代替的給付を行う仕組みを有している.患者がこの給付を受けるには第三者行為の届出が必要条件となるが,この届出は後に補償問題を惹起するため,患者と医師の意見が一致せず,倫理的ジレンマが生じる可能性がある.しかし,本邦ではこれまで,第三者行為の届出やこの代替的給付の仕組みと関連して医師の倫理的問題は研究されていなかった. 我々は,第三者行為の届出と関連して倫理的ジレンマを生じた2症例を経験した.2症例とも,療養の給付事由に対する第三者行為の関与が絶対的なものではなかった.1例では医師の説得により届出が行われ,もう1例では届出が行われなかった.症例の経験を通して,この代替的給付の仕組みに関する幾つかの問題を指摘した.今後,第三者行為が部分的に関与した傷病の医療費請求のあり方について,さらなる議論を通じ,将来何らかの指針などが示されるべきであろう.