著者
渡邊 淳子 森 真喜子 井上 洋士
出版者
日本臨床倫理学会
雑誌
臨床倫理 (ISSN:21876134)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-62, 2017 (Released:2021-07-12)
参考文献数
20

摂食嚥下訓練において言語聴覚士(以下,ST)はジレンマを感じることがある.そこで,摂食嚥下訓練の場面に注目し,STが経験するジレンマの様相とそのようなジレンマが生じるプロセスを明らかにすることを目的とした.摂食嚥下訓練の経験があるST8名に半構造化インタビューを行い,得られたデータをStrauss & Corbin版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した.10のカテゴリーと1つのコアカテゴリーが抽出され,帰結となったカテゴリーのうち《患者に無益な努力をさせ続ける苦悩》,《直接訓練を止めると患者が衰弱してしまうジレンマ》,《患者の益にならないような直接訓練を続けるジレンマ》,《患者の死に加担したように感じる苦悩》の4つのカテゴリーがジレンマの状況であった.そのうち3つの状況は倫理原則が対立する倫理的ジレンマの状況であった.また,本研究の結果から,STが感情労働による疲弊や共感疲労に陥るリスクが高いことも示唆された.
著者
實金 栄 橋本 優 井上 かおり 梅本 愛実 笠松 奈央 小薮 智子 白岩 千恵子 岡本 宣雄 竹田 恵子
出版者
日本臨床倫理学会
雑誌
臨床倫理 (ISSN:21876134)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.18-31, 2018 (Released:2021-07-12)
参考文献数
73

本研究は日本の看護師を対象に,スピリチュアルケアの実践指標(nurses’ spiritual care practices;NSCP)を開発し,その実践指標の尺度としての妥当性と信頼性を検討することを目的とした。対象は日本の看護師1,058人。尺度の妥当性は,前提となるケア,信じる・共にいる,協働,存在探求へのケアの4因子を一次因子,スピリチュアルケアを二次因子とするモデルを仮定し,このモデルの構成概念妥当性を検討した。さらに道徳的感受性との関連で併存的妥当性,ヒューマンケアとの関連で収束的妥当性を検討した。分析の結果,構成概念妥当性,併存的妥当性および収束的妥当性は検証された。NSCPにより測定された看護師のスピリチュアルケア実践は,存在探求へのケアが最も低く,この実践力向上が課題と考えられた。そのため,看護師自身がスピリチュアルケアに向き合うことへの覚悟を支える支援が求められる。
著者
石川 博康 糟谷 昌志
出版者
日本臨床倫理学会
雑誌
臨床倫理 (ISSN:21876134)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.38-44, 2017 (Released:2021-07-12)
参考文献数
9

本邦の健康保険制度は,第三者行為により生じた傷病に対して代替的給付を行う仕組みを有している.患者がこの給付を受けるには第三者行為の届出が必要条件となるが,この届出は後に補償問題を惹起するため,患者と医師の意見が一致せず,倫理的ジレンマが生じる可能性がある.しかし,本邦ではこれまで,第三者行為の届出やこの代替的給付の仕組みと関連して医師の倫理的問題は研究されていなかった. 我々は,第三者行為の届出と関連して倫理的ジレンマを生じた2症例を経験した.2症例とも,療養の給付事由に対する第三者行為の関与が絶対的なものではなかった.1例では医師の説得により届出が行われ,もう1例では届出が行われなかった.症例の経験を通して,この代替的給付の仕組みに関する幾つかの問題を指摘した.今後,第三者行為が部分的に関与した傷病の医療費請求のあり方について,さらなる議論を通じ,将来何らかの指針などが示されるべきであろう.
著者
川﨑 志保理 櫻井 順子 金子 真弘
出版者
日本臨床倫理学会
雑誌
臨床倫理 (ISSN:21876134)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.73-76, 2017 (Released:2021-07-12)
参考文献数
4

エホバの証人の患者の輸血拒否に関しては,現場では画一化された対応がなされているとはいい難く,その解決には現状の把握が重要である.エホバの証人の信者の方にインタビューを行うことによりその結果と医療現場との考えを比較してみると,患者の権利,医療,法だけでは解決できない問題が根底にあり,臨床倫理に基づいた対応がエホバの証人と医療側との相互理解につながる可能性があると思われた.