著者
名越 央樹 糸澤 季余美 川窪 美緒 見供 翔 竹井 仁
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.35 Suppl. No.2 (第43回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A1314, 2008 (Released:2008-05-13)

【目的】腹横筋は脊柱安定化等に重要とされており、多くの研究が報告されているが、腹横筋エクササイズ(以下Ex.)が四肢の関節運動の反応速度に及ぼす影響についての報告は少ない。そこで腹横筋収縮の有無による膝関節伸展運動時の大腿直筋(以下RF)・外側広筋(以下VL)・内側広筋(以下VM)の反応速度・角速度の相違について腹横筋Ex.の影響を検討した。【方法】対象は健常男性10名(平均年齢21歳、身長172.0cm、体重61.7kg)とした。運動課題は、腹横筋自主Ex.(3週間)前後での腹横筋収縮無しと有りでの膝伸展運動とした(以下、課題1:Ex前の収縮無し、課題2:Ex.前の収縮有り、課題3:Ex.後の収縮無し、課題4:Ex.後の収縮有りとした)。腹横筋収縮方法は、事前にstabilizer(chattanoga社製)を使用し練習させた。測定肢位は背臥位にて膝下を台からおろした膝屈曲90°とした。試行回数は15回とした。課題2と4では、腹横筋収縮後0.5~4.0秒内にブザーを鳴らし、膝を伸展するよう命じた。多用途筋電図モニター(Polygraph System:日本光電社製)を用いて表面筋電図を、等速性運動機器(Biodex System3)を用いて関節トルク、角速度を測定した。そして、ブザーの直前0.2秒間で筋電数値、トルク数値の最大値、最小値をとり、合図後にその値を上回った時、もしくは下回った時の値を目安に筋電数値から潜時(以下PMT)を、トルク数値から反応時間(以下RT)を求めた。角速度は最大値をとった。Ex.は事前練習と同様の方法にて腹横筋収縮を1日60回以上毎日行わせた。統計処理はSPSSを用いて対応のある一元配置分散分析・多重比較検定(LSD法)を行い、有意水準5%未満とした。【結果】Ex.前後でPMT、RT、角速度全てに有意差が見られた。PMTは課題1と3でRF、VL、VMそれぞれ30.8、34.5、39.9、課題2と4で34.5、35.4、35.0、課題1と2で27.7、29.3、35.9、課題3と4で31.4、30.1、31.1[msec]短縮した。RTは課題1と3で42.6、課題2と4で48.2 [msec] 短縮し、角速度は課題1と3で36.8、課題2と4で26.0[°/sec]速くなった。膝伸展100%MVCはEx.前で182.5、後で182.3 [N・m]で有意差はなかった。【考察】この結果は無意識下での反応速度、角速度が速くなったことが言える。これは腹横筋Ex.により腹横筋の運動単位の動員、筋力の向上がおこり、四肢の動作に対する腹横筋の先行的収縮の向上、腹圧増加による脊椎安定性向上、脊髄運動細胞興奮性の促通作用の増大等の影響を与えたと考えた。今回の結果は、無意識下でも腹横筋を収縮させることが可能となることで反応速度が向上したことを示唆している。よって腹横筋収縮Ex.をすることは立ち上がりや歩行、スポーツ等の実際の動作の中で重要な意味を持つと考える。