- 著者
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紅葉 咲姫
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2015, 2015
本研究は,地方都市の大学誘致政策の事例を通して,立地に期待していた効果と立地後の実態との齟齬を分析した.<BR> 調査対象地域の北見市は,若年者人口の増加,地域産業の人材育成を期待し,地域内の大学の拡充と地域外からの大学の誘致を行ってきた.2000年代以降は,産学官連携を通した地域産業振興も推進している.<BR> 北見市における事例分析の結果は,以下の2点にまとめることができる.<BR> ①大学誘致による地域振興への期待と立地の効果は一致せず,地元からの進学,地元への就職は一部に留まった.具体的には,都市人口への影響は大学周辺の若年者人口層の増加に留まった.進学および就職においては,大学によって異なった傾向が見られた.理系国立大学の北見工業大学は,全国各地から受験生を集めており,大企業への就職が多いことから,就職先も全国に及んでいる.文系私立大学の北海学園北見大学は,地元と結びついた進学および就職が行われてきたが,地元子弟の都市部志向から進学者が減少し,経営悪化におちいった.看護系私立大学の日本赤十字北海道大学においては,看護需要の高さを背景に,在学中の奨学金制度を通して,地元からの進学と北海道内での就職が安定的に行われている.<BR> ②大学の立地によって北見市の産業構造が大きく変化することはなく,地元での就職先は既存企業に限定されていた.北見工業大学を中心とした産学官連携に関しては,当初は地元中小企業および行政との共同研究が中心であり,地元企業の技術的,資金的な基盤として活用されてきた.しかし,北見工業大学の共同研究の質的な拡大に伴い,地域外の企業との関係性が強まっている.<BR> 本分析の結果より,大学を通した地域振興政政策は,地元への進学志向の低下により,大学誘致の意義を低下させている.大学設置後も地域の産業構成は変化せず,連携の対象となる企業が地域内にない場合,産学官連携の効果も地域外に流出することがわかった.以上から,北見市の場合では,地域振興政策の資源としての大学の価値は低下していると結論付けられる.