著者
細野 達夫 細井 徳夫
出版者
養賢堂
雑誌
農業気象 (ISSN:00218588)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.207-216, 2002-12-10
被引用文献数
2

施設栽培において、栽培作物の吸水量を把握あるいは予測することは、適切な灌水量の決定や施設内の熱水分環境制御のために重要である。灌水についていえば、作物が繁茂した場合には地面からの蒸発の占める割合は相対的に小さくなるので、作物の吸水量を把握あるいは推定することが、灌水量の決定において重要となる。近年、施設園芸では、環境保全的でかつ効率的な栽培方法として、肥料および水を植物に必要な量のみ施用することが可能な、いわゆる養液土耕法が普及し始めており、植物に必要な水量を決定する適切な方法が求められている。また、繁茂した植物による多量の蒸散は、施設内の熱水分環境に大きく影響を及ぼすので、冷暖房や換気等の環境制御においても蒸散量の把握・予測が非常に重要である。一方、蒸散量は、施設内環境の影響を受ける。施設内作物の蒸散と環境要因との関係については、数多くの研究がある。また、蒸散量の大小は作物の品質にも影響を及ぼすので、作物の蒸散量を制御因子として環境調節をする技術についても研究がなされている。しかし、実用規模の施設で、野菜の栽培期間にわたって作物の吸水量を精密に測定した例は、国内外を問わず非常に少ない。養液栽培キュウリ(主に冬作)についての研究があるが、トマト等、その他の野菜では見あたらない。筆者らは、実用規模の施設(ガラス温室)で養液栽培によりトマトの長期多段取り栽培(長段栽培)を行う中で、継続的にトマトの吸水量を評価した。そのデータをもとに、本報では、生育期間内の総吸水量の内訳、1日あたりのトマトの吸水量(日吸水量)の経日変化、および日吸水量とトマトの生長および環境要素との関連について解析した結果を報告する。