著者
細見 晃司
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

腸内細菌を介した免疫制御は、アレルギーなどの免疫疾患や糖尿病などの生活習慣病など様々な疾患に関わっていることが分かり、健康科学における新潮流となっている。我々は、腸管管腔だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度は、アルカリゲネスが宿主細胞である樹状細胞の内部に共生していることに着目し、樹状細胞とアルカリゲネスとの共生メカニズム、さらにそれに連動する免疫制御との関連について培養細胞を用いた解析を行った。昨年度の検討から、アルカリゲネスと樹状細胞の共培養系における樹状細胞の免疫学的な機能変化について大腸菌を比較対象として解析し、アルカリゲネスは大腸菌に比べて樹状細胞からのIL-6などの炎症性サイトカインの産生誘導能が低いこと、さらにそのメカニズムとして菌体成分であるLPSの活性が弱いことを見出している。本年度は、生理学的な観点から樹状細胞の機能変化について検討し、アルカリゲネスを取り込んだ樹状細胞では、ミトコンドリアの基礎呼吸量が上昇していることが明らかになった。ミトコンドリア活性は細胞死と関連することから、樹状細胞のアポトーシス細胞死について解析したところ、大腸菌を取り込んだ樹状細胞はアポトーシスが誘導されるのに対して、アルカリゲネスを取り込んだ樹状細胞ではアポトーシスがほとんど誘導されなかった。この結果はアルカリゲネスの樹状細胞内共生において重要な知見であると考えており、現在、その分子メカニズムの解明を進めている。