著者
保富 康宏 浦野 恵美子
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2021-07-09

COVID-19は高齢者において重症化することは周知であり、再感染についてもワクチン開発に関連して精査が必要である。このため、有効な動物モデルによる病態や免疫応答の解析が求められている。申請者らはカニクイザルを用いてCOVID-19霊長類モデルを作製することに成功した。霊長類医科学研究センターでは世界的にも極めて貴重な高齢ザルの巨大コロニーを保有している。これら高齢ザルを用いてSARS-CoV-2再感染モデルの検討を行ったところ、初回感染以上に強い肺炎像を示す個体も確認された。本研究では健康若齢個体に加え老齢個体におけるSARS-CoV-2再感染による肺炎の病態の解明を検討する。
著者
池田 奈由 西 信雄
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

国民健康・栄養調査の協力率は長期的に低下傾向にあり、国民全体の特徴を適切に反映した統計データが得られていない可能性があることから、非協力者バイアスとその修正方法について検討した。その結果、世帯属性等により世帯別の協力状況に差があるとともに、人口当たり協力率は低下傾向で、性・調査票別に差があることが示された。また、喫煙率の非協力者バイアスは限定的である可能性が示された。さらに、多重代入法を用いて、喫煙状況別の上半身肥満率の非協力者バイアスを修正できる可能性が示された。以上の結果を参考に、少なくとも現状の協力率を維持し、統計手法の活用により非協力者バイアスを最小限に止める方策を検討する必要がある。
著者
國澤 純
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

腸内細菌を介した免疫制御は、様々な疾患に関わることが分かり、健康科学における新潮流となっている。これまでの研究の多くは、腸管管腔や上皮細胞の粘液層に存在する細菌に焦点が当てられ解析が進められてきたが、我々は、これらの部位だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度はこれまでの研究を拡張して大腸粘膜組織にも着目し、大腸粘膜固有層に存在するマクロファージに共生する細菌としてStenotrophomonas Maltophiliaを同定し、その共生メカニズムの解明を行った。骨髄由来もしくはマウスより単離したマクロファージとStenotrophomonas maltophiliaの共培養により、ミトコンドリア呼吸とIL-10産生が増加することを見いだした。さらにsmlt2713遺伝子にコードされる分子量25 kDaのタンパク質を欠損したStenotrophomonas maltophiliaではIL-10の産生誘導能が欠失すること、逆にIL-10欠損マクロファージではStenotrophomonas maltophiliaによる細胞内共生が破綻することから、smlt2713とIL-10はそれぞれ菌、宿主細胞において共生を成立させる必須因子であることが判明した。大腸のマクロファージはIL-10を産生することで恒常性の維持に貢献していることから、本研究結果は、大腸における細胞内共生ネットワークを介した恒常性維持機構の一つを提唱したものとなる。
著者
細見 晃司
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

腸内細菌を介した免疫制御は、アレルギーなどの免疫疾患や糖尿病などの生活習慣病など様々な疾患に関わっていることが分かり、健康科学における新潮流となっている。我々は、腸管管腔だけではなくパイエル板などの腸管リンパ組織の内部にも細菌が共生していることを明らかにし「組織内共生」という新概念を提唱してきた。本年度は、アルカリゲネスが宿主細胞である樹状細胞の内部に共生していることに着目し、樹状細胞とアルカリゲネスとの共生メカニズム、さらにそれに連動する免疫制御との関連について培養細胞を用いた解析を行った。昨年度の検討から、アルカリゲネスと樹状細胞の共培養系における樹状細胞の免疫学的な機能変化について大腸菌を比較対象として解析し、アルカリゲネスは大腸菌に比べて樹状細胞からのIL-6などの炎症性サイトカインの産生誘導能が低いこと、さらにそのメカニズムとして菌体成分であるLPSの活性が弱いことを見出している。本年度は、生理学的な観点から樹状細胞の機能変化について検討し、アルカリゲネスを取り込んだ樹状細胞では、ミトコンドリアの基礎呼吸量が上昇していることが明らかになった。ミトコンドリア活性は細胞死と関連することから、樹状細胞のアポトーシス細胞死について解析したところ、大腸菌を取り込んだ樹状細胞はアポトーシスが誘導されるのに対して、アルカリゲネスを取り込んだ樹状細胞ではアポトーシスがほとんど誘導されなかった。この結果はアルカリゲネスの樹状細胞内共生において重要な知見であると考えており、現在、その分子メカニズムの解明を進めている。
著者
高野 淳一朗
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究でヒトと類人猿以外で唯一B型肝炎ウイルス(HBV)に感受性のあるツパイ(Tupaia belangeri)を用いて、HBV感染動物モデルの作製を目的としてHBV高感受性ツパイ系統の樹立を目的とした。血中ウイルス量としては低いレベルしか確認はできなかったが、検出率の比較では雑系動物であるツパイにおいてHBV分子クローンの有用性が確認でき、F1群とF2群で比較したところ、2倍以上の検出率であることが確認できた。また、1頭だけだが、肝臓の腫瘍化も確認できた。これらの結果から、HBV高感受性ツパイ系統樹立の高い可能性と今後のHBV研究での有用性が確認できた。
著者
野村 大成 足立 成基 笠井 文生 梁 治子 振津 かつみ
出版者
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ロシア連邦小児放射線防護研究センター(センターと略す)が実施しているチェルノブイリ原発事故による汚染地域住民とその子ども(約97000人)の健康診断、治療データおよび野村によるマウス継世代影響研究試料を、臨床、病理学的、分子遺伝学的に調査し、放射線被ばくと未来世代における健康との相関を調査・研究した。1. 放射線被ばくの次世代に及ぼす健康影響調査:被ばく住民およびその子孫におけるがん、先天異常、その他の疾病ついて、センター研究者の協力を得て調査を開始し(野村、連携研究者;振律、吉田、研究協力者;センター・Baleva, Sipyagina, Karakhan, Potrohova, Saakyan)、被ばく住民の子供には小児特有のがんの上昇が初めて見られた。マウス実験においても、原子炉放射線により、マイクロサテライト突然変異が誘発され、5GyのX線を♂マウスに1回照射したことにより、次世代以降にがん、発生異常を好発した2系統の34~54代目マウスを調べたところ、マイクロサテライト突然変異がほぼ全例に蓄積していることを発見した(非照射マウスでは2%以下)(野村、梁、足立)。国際学会発表、国際誌共同発表を行った。また、10月にモスクワ、3月に大阪において共同研究集会を行った。2. 分子レベルでの継世代影響調査:被ばく住民の家族から末梢血を採取をセンター研究協力者が開始した。次世代シークエンサーIon Torrentのシステムに対応した試薬を用いてシークエンスライブラリーを作製し、Ion PGMにてシークエンスを行えば、変異を特定するために十分なデータ量が得られる見込みであることがわかった(笠井、梁、足立、野村)。また、マイクロサテライト変異、遺伝子発現変化とがん遺伝子変異の検出についても、当研究所において解析する。実施内容についてはすでに当研究所の倫理委員会の承認済である。