著者
堀江 昭夫 石井 惟友 栗田 幸男 田中 教英 細迫 有昌
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.529-540, 1980-12-01

長期間に血栓が多発し, 門脈圧亢進症状を示し, 心不全で死亡した54歳男の剖検症例の報告である. 臨床経過は11年にわたり, 上腸間脈動脈血栓, 食道静脈瘤や牌腫が認められた. 末梢血の全血球成分は平均して多く, 血小板数は通常40万以上であった. 剖検時, 骨髄は細胞成分に富み, 3系統の造血亢進像が認められた. 肝硬変を含め, 肝に線維化像はみられなかった. 門脈に合流する静脈には多発性血栓形成像があり, 新旧の梗塞を示す粗大結節状の牌腫, 食道脈瘤なども認められた. 冠状動脈血栓の器質化にともなう左心室心筋の線維化と心尖部に動脈瘤がみられた. 典型的な血管内凝固症候群では血小板数の減少がみられ, 特発性門脈圧亢進症や非硬変性門脈線維症には肝線維化巣が認められることによって, 本症と鑑別される. 本症は臨床検査所見ならびに剖検所見を. 綜合してhemopoietic dysplasiaの範疇に入ると考えられる.(1980年8月6日受付)