- 著者
-
綱田 錬
- 出版者
- 北海道大学
- 巻号頁・発行日
- 2021-03-25
我が国において家庭用や産業用に使用されているモータは約1 億台あると言われており,それらの電力消費量は,全体の約55%を占めている。したがって,モータのエネルギー効率を向上させることができれば,高い省エネルギー効果を見込めるため,高効率特性を有するモータが強く求められている。また,上記のモータの電力消費の中でも産業用途のモータが占める割合が高く,より高効率化が重要であることが考えられる。その一方で,システムの小型化も重要であり,モータを組み込むシステムによっては,システムの小型化のために扁平な形状を有するモータが望まれる場合もある。これまでの技術の進歩によって,近年は高効率のみならず,扁平な形状を有するといった付加価値の高いモータが求められるようになっている。そこで,本研究では,産業用途のモータにおいて,扁平形状かつ高効率を有するモータの実現を目的としている。また,モータ本体の小型化も実現するため,ターゲットとする運転領域は小型化に有効である高速回転領域としている。
現状,一般的に使用されているモータの多くはエアギャップが径方向に存在するラジアルギャップモータと呼ばれる構造である。しかし,ラジアルギャップモータは本研究でターゲットとしている扁平形状においては,構造上,高いトルク及び効率を実現することが難しい。そこで本研究では,扁平形状において高いトルクを実現しやすいアキシャルギャップモータの採用を検討している。アキシャルギャップモータは回転軸方向にエアギャップが存在し,扁平形状でも高いトルクを実現できる。これまでに我が国を含め世界中の研究・開発機関によって検討されてきた従来のアキシャルギャップモータは一般的にネオジム焼結磁石を採用している。ネオジム焼結磁石は残留磁束密度が高いため,トルク密度を高くすることに有効である。しかし一方で,電気伝導率が高いため,ターゲットの高速回転領域では磁石内で渦電流損が大きくなり,効率が非常に悪いモータとなっていた。また,従来構造は回転子の磁気抵抗を小さくするために,回転子コアとして磁性材を用いていたが,高速回転領域ではそこで発生する渦電流損も効率低下の一因となっていた。
そこで本研究では,まずコアレス回転子を採用することによって,より回転子構造を簡単にしつつ,回転子コアでの渦電流損の抑制を検討した。加えて,電気伝導率の低いネオジムボンド磁石を採用することで,アキシャルギャップモータにおいて高速領域において高効率化することを検討した。本研究においては,提案モータの有効性を3 次元の電磁場解析及び試作機による実験の双方で明らかにしている。
また,提案モータの今後の更なる高効率化のために,固定子コアに用いる圧粉磁心(SMC)の適
切な開発方針に関しても検討を行った。