著者
網谷 夏実 隅 敦
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.93-106, 2014

本研究は,スペインの初等美術教科書における題材の特徴を,主として描画指導に関わる題材の分析を通して,日本の教科書題材との違いに焦点を当てて明らかにしようとしたものである。まず,スペインの初等美術教科書の構成を整理した。次に,教科書の目次から内容の概要を翻訳し整理したところ,主に平面の題材が多く,概ね作品鑑賞から制作に移るという過程が確認できた。一方,日本の教科書においては配当されていない(1)臨画の題材,(2)ぬり絵をする題材,(3)絵の描き始めが示されている題材,(4)背景が既に描かれている題材について,実際に制作を行いながら,詳細な分析と考察を行った。そこでは,発想や構想の能力の育成よりも対象を正確に写し取る技術を重視する特徴が見いだされた。さらに,スペインの教科書で特徴的であったぬり絵に焦点を当て,日本の初等美術教育においてぬり絵が扱われていない理由を考察し,①山本鼎の自由画教育運動の影響,②玩具として認識されていること,③教育的効果に対する否定的な意見,④評価を伴う場合の問題の四点を導き出した。