著者
濱地 望 矢倉 千昭 緒方 綾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1041, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】関節過可動性(Hypermobility:HM)は,関節包や靭帯などの結合組織の緩み,筋緊張の低さなどによって,主に伸展可動域の関節可動性が増大しており,男性より女性に多く存在することが知られている.臨床的には,女性の膝関節靭帯損傷や腰椎すべり・分離症などの発症にHMが関与していると考えられているが,その関係は明らかになっていない.しかし,若年集団におけるHMの特性や関連因子について検討することは,スポーツ外傷などの発症を予防するための基礎資料になると考えられる.そこで,本研究では,若年者を対象に,HMの割合や性差,関節およびその周囲の痛み(関節周囲痛)との関係について調査を行った.【方法】対象は, 関節可動性に影響を及ぼす可能性のある整形外科疾患のない若年者151名(男性67名,女性84名),平均年齢19.9±1.5歳であった.対象者には,書面にて本研究の目的と内容を説明し,同意を得てから調査を行った.HMの評価は,Beighton Hypermobility Score(BHS)を用い,両側の手関節,第5指,肘関節,膝関節と体幹の9ヵ所の過可動性を確認し(過可動性があると1点加算),9点中4点以上をHMとした.関節周囲痛の有無は,肩関節,肘関節,手関節,膝関節,足関節,腰背部,仙腸関節など主要な関節およびその周囲における慢性的な痛みの有無を質問紙にて確認した.統計学的分析には,性別によるHMの割合,HMと各々の関節周囲痛との関係はχ2検定を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした.【結果】対象者全体でHMのある者は151名中31名(20.5%),男性67名中4名(5.9%),女性84名中27名(32.1%)で,女性におけるHMの割合が高かった(p<0.01).また,女性ではHMと関節周囲痛との関係はなかったが,男性では仙腸関節痛のみと関係があった(p<0.01).【考察】本研究の結果,若年女性の約3割にHMが存在することが示された.女性は,女性ホルモンなどの影響によって,関節包や靭帯などの結合組織が緩く,筋緊張が低く,男性より関節支持性が低いといわれている.HMは,若年女性において,しばしば観察される身体的な特徴のひとつであると考えられる.しかし,女性ではHMと関節周囲痛との関係はなかった.女性は,男性より関節支持性が低く,外部からの力学的ストレスを受けやすいため,HMと関節周囲痛との関係がみられにくいと考えられる.一方,関節支持性の高い男性では,HMの影響による痛みは,仙腸関節のような結合組織によって強靭に固定されている関節に起こりやすい可能性がある.【まとめ】HMは,若年女性のしばしば観察される身体的な特徴のひとつであるが,関節周囲痛との関係については,さらなる精査が必要である.