著者
曽田 武史 矢倉 千昭 高畑 哲郎 岡 真一郎 田原 弘幸
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.515-519, 2008 (Released:2008-10-09)
参考文献数
23

[目的]本研究では,背臥位から腹臥位,続いて立位に姿勢変化させたときの血圧レベルの変動について調査した。[対象と方法]健常成人54名(男性27名,女性27名,平均年齢22.0±2.7歳)を対象に各姿勢における収縮期血圧(SBP),拡張期血圧(DBP)および脈拍数(PR)を測定した。[結果]腹臥位は背臥位や立位に比べてSBPが有意に低下し,背臥位に比べてPRが有意に増加した。立位は背臥位や腹臥位に比べて有意にDBPは上昇し,PRも増加した。[結語]本研究の結果から,背臥位から腹臥位への姿勢変化における短時間の血圧レベルの変動は,背臥位から立位への姿勢変化に比べてDBPやPRの変動が少なく,SBPが低下する可能性があることが示された。
著者
野本 真広 矢倉 千昭
雑誌
リハビリテーション科学ジャーナル = Journal of Rehabilitation Sciences
巻号頁・発行日
vol.9, pp.9-16, 2014-03-31

〔目的〕本研究は,骨盤前傾および後傾座位での傾斜反応における内腹斜筋,多裂筋の筋活動の変化について検討した.〔対象〕健常成人男性8 名,平均年齢28.4 ± 3.2 歳であった.〔方法〕骨盤前傾および後傾座位にて右側方傾斜時の左右の内腹斜筋,多裂筋の筋電図積分値を測定し,安静時の筋電図積分値を100% として比較を行った.〔結果〕筋電図積分相対値は,骨盤後傾座位では有意差を示さなかったが,骨盤前傾座位において右内腹斜筋は,10°右側方傾斜時と比べ20°右側方傾斜時に有意に増加した.左内腹斜筋は,安静時に比べ10°右側方傾斜時に有意に増加した.右多裂筋は,有意差がなかったが,左多裂筋は安静時に比べて10°右側方傾斜,20°右側方傾斜で有意に増加した.〔結論〕座位で体幹筋群の筋活動を高める傾斜反応の誘導は,骨盤前傾座位にて誘導することが重要であることが示された.
著者
岡崎 倫江 那須 千鶴 吉村 和代 曽田 武史 津田 拓郎 高畑 哲郎 矢倉 千昭
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.509-513, 2008 (Released:2008-10-09)
参考文献数
28
被引用文献数
3 2

[目的]女性の前十字靭帯損傷のリスクは,ホルモン変動による筋緊張の低下と関連している可能性がある。本研究は,月経周期中における大腿筋群の筋硬度および筋短縮度の変動について調査することを目的とした。[対象と方法]対象者は正常月経周期を有する若年女性9名(測定:18脚),平均年齢25.9±2.1歳で,月経周期の月経期,排卵期,黄体前期,黄体後期に測定を行った。筋硬度は筋硬度計を用いて大腿直筋と大腿二頭筋について測定し,筋短縮度は関節角度計を用いて大腿直筋とハムストリングスについて測定した。[結果]筋短縮度は有意な変化がなかったが,大腿直筋および大腿二頭筋の筋腹の筋硬度は他の周期に比べて黄体前期において有意に高くなった(p<0.05)。[結語]本研究の結果,大腿筋群の筋硬度は月経周期中に変動していることが示唆された。
著者
小川 紘代 矢倉 千昭 木村 航汰
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1278, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】バレエには“ポアント”という,つま先が床から離れた時には常にしなければならない重要な肢位がある。正しいポアントでは,足関節底屈,趾節間関節(以下IP関節)伸展,中足趾節関節(以下MP関節)屈曲となる。この動きはバレエ特有のものであり,バレエを長年習っていても,IP関節が屈曲してしまう人もいる。そこで本研究では,正しいポアントができる人の足部構造と機能の特性を明らかにし,指導方法の開発に生かすことを目的とする。【方法】対象はクラッシックまたはモダンバレエ歴6年以上の女性18名,平均年齢17.9±4.4歳であった。長座位となって両足でポアントをしてもらい,IP関節が伸展しているポアント群とIP関節が屈曲している非ポアント群に分けた。足部構造として,内側縦アーチをアーチ高率,横アーチを開張率で評価した。アーチ高率は足長に対する舟状骨高の割合,開張率は足長に対する足幅の割合で求めた。どちらも測定は自然立位とし,足長は踵骨後面から第1中足骨頭までの距離とし,足幅は第1中足骨頭と5中足骨頭を結ぶ線とした。足部機能として足趾圧迫力と足趾把持力を評価した。足趾圧迫力は自作のキットに等尺性筋力計μTas F-1(アニマ)を設置し,第2~4趾で押す力を測定した。足趾把持力は足指筋力測定器II(竹井機器)を用いて測定した。測定肢位は上肢を胸の前で組んだ端座位とした。左右2回ずつ測定し,最大値を体重で除した体重比で算出した。統計学的分析として,ポアント群と非ポアント群の比較は対応のないt検定を用い,さらに効果量d値を計算した。【結果】右足において,ポアント群は6名,非ポアント群は12名で,アーチ高率はポアント群23.1±3.9%,非ポアント群19.0±2.5%で有意差があった(p<0.05,d=1.34)。一方,左足では,ポアント群は5名,非ポアント群は13名で,足趾圧迫力はポアント群0.85±0.18N/kg,非ポアント群0.56±0.18N/kg(p<0.01,d=1.55),足趾把持力はポアント群0.54±0.11kg/kg,非ポアント群0.33±0.12kg/kg(p<0.01,d=1.70)で有意差があった。また,左のアーチ高率は,ポアント群23.7±3.6%,非ポアント群20.4±2.8%(p=0.055,d=1.09),開帳率はポアント群53.5±3.8%,非ポアント群50.3±2.8(p=0.071,d=1.02)で有意差はなかったが効果量は大きかった。【結論】両足ともにポアント群は非ポアント群に比べてアーチ高率が高く,左足のポアント群は非ポアント群に比べて足趾筋力が強かった。IP関節屈曲を防ぐには,内在性の足趾伸展筋群(虫様筋と骨間筋)を常に同調して働かせる必要がある。正しいポアントを行うためには内在性の足趾伸展筋群が働きやすい構造を持ち,さらに足底筋群の筋機能が高い必要があると考えられる。また,アーチ高率は足趾圧迫トレーニングによって増加するとの報告もあることから,今後はポアントができるための指導方法を開発し,検証していきたい。
著者
曽田 武史 遠藤 弘樹 矢倉 千昭 荻野 和秀 萩野 浩 辻井 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.A0809, 2004

【目的】筋硬結などの筋病変は関節可動域制限や感覚障害のみならず,障害部位の冷え,発汗異常などの自律神経機能障害も複雑に絡んでいることが多い。マイオセラピーはMyoVib(マイオセラピー研究所)の振動刺激により,これらの障害を改善する治療方法として開発,考案された治療技術である。本研究では,健康成人を対象にMyoVibの振動刺激が自律神経機能に及ぼす影響について検討した。<BR>【対象】循環器障害の既往のない健常な成人6名(男性3名,女性3名)で,平均年齢は20.2±1.9歳であった。すべての対象者に対して研究主旨と内容を説明し,同意を得た上で研究を実施した。<BR>【方法】対象者は腹臥位となり,呼吸数を15回/分に維持させ,第2胸椎から第5胸椎レベルの多裂筋に振動刺激を20分間実施した。MyoVibは振幅3mm、周波数30Hzのものを使用した。心電計はLifeCorder-8(日本光電)を用い,CM5で記録した。記録は実施前,実施中,実施直後,実施終了10分後,実施終了20分後に3分間ずつ記録した。分析方法は心電図波形をBIMUTAS II (キッセイコムテック)でサンプリング周波数200HzにてA/D変換し,3分間の心拍から定常な128拍を分析対象に平均RR間隔,標準偏差,心拍変動係数(CVRR)の算出と周波数解析を行った。スペクトル解析ではRR間隔を平均RR間隔で再サンプリングし,スプライン補間にて連続関数を得た。解析方法は高速フーリエ変換を用い,得られたスペクトルから低周波成分(LF)および高周波成分(HF)のパワースペクトルを求めた。このパワースペクトルから,LF/HFを求め,LF/HFを交感神経活動,HFを副交感神経活動の指標とした。統計処理は実施前を基準に,実施中,実施直後,実施終了10分後,実施終了20分後の平均RR間隔,CVRR,LF/HF,HFの変化をWilcoxon signed rank testで行った。<BR>【結果】実施前と比較し,平均RR間隔は,実施中および実施終了20分後に有意な減少(p<0.05)が認められた。CVRRは実施中と実施終了10分後に有意な減少(p<0.05)が認められた。LF/HFは実施直後に有意な低下(p<0.05)が認められ,その後増加する傾向がみられた。HFは実施後および実施終了10分後に有意な低下(p<0.05)が認められた。<BR>【考察】CVRRでは実施中および実施終了10分後に有意に減少していることや,実施直後にLF/HF,HFがともに有意に低下していることから,MyoVibによる振動刺激は,交感および副交感神経の双方の活動を抑制する傾向がみられた。今後は対照群を設け,実施中,実施後の自律神経活動の変化についてさらに検討していく必要がある。
著者
濱地 望 矢倉 千昭 緒方 綾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A3P1041, 2009 (Released:2009-04-25)

【目的】関節過可動性(Hypermobility:HM)は,関節包や靭帯などの結合組織の緩み,筋緊張の低さなどによって,主に伸展可動域の関節可動性が増大しており,男性より女性に多く存在することが知られている.臨床的には,女性の膝関節靭帯損傷や腰椎すべり・分離症などの発症にHMが関与していると考えられているが,その関係は明らかになっていない.しかし,若年集団におけるHMの特性や関連因子について検討することは,スポーツ外傷などの発症を予防するための基礎資料になると考えられる.そこで,本研究では,若年者を対象に,HMの割合や性差,関節およびその周囲の痛み(関節周囲痛)との関係について調査を行った.【方法】対象は, 関節可動性に影響を及ぼす可能性のある整形外科疾患のない若年者151名(男性67名,女性84名),平均年齢19.9±1.5歳であった.対象者には,書面にて本研究の目的と内容を説明し,同意を得てから調査を行った.HMの評価は,Beighton Hypermobility Score(BHS)を用い,両側の手関節,第5指,肘関節,膝関節と体幹の9ヵ所の過可動性を確認し(過可動性があると1点加算),9点中4点以上をHMとした.関節周囲痛の有無は,肩関節,肘関節,手関節,膝関節,足関節,腰背部,仙腸関節など主要な関節およびその周囲における慢性的な痛みの有無を質問紙にて確認した.統計学的分析には,性別によるHMの割合,HMと各々の関節周囲痛との関係はχ2検定を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした.【結果】対象者全体でHMのある者は151名中31名(20.5%),男性67名中4名(5.9%),女性84名中27名(32.1%)で,女性におけるHMの割合が高かった(p<0.01).また,女性ではHMと関節周囲痛との関係はなかったが,男性では仙腸関節痛のみと関係があった(p<0.01).【考察】本研究の結果,若年女性の約3割にHMが存在することが示された.女性は,女性ホルモンなどの影響によって,関節包や靭帯などの結合組織が緩く,筋緊張が低く,男性より関節支持性が低いといわれている.HMは,若年女性において,しばしば観察される身体的な特徴のひとつであると考えられる.しかし,女性ではHMと関節周囲痛との関係はなかった.女性は,男性より関節支持性が低く,外部からの力学的ストレスを受けやすいため,HMと関節周囲痛との関係がみられにくいと考えられる.一方,関節支持性の高い男性では,HMの影響による痛みは,仙腸関節のような結合組織によって強靭に固定されている関節に起こりやすい可能性がある.【まとめ】HMは,若年女性のしばしば観察される身体的な特徴のひとつであるが,関節周囲痛との関係については,さらなる精査が必要である.
著者
岡崎 倫江 那須 千鶴 吉村 和代 曽田 武史 津田 拓郎 高畑 哲郎 大石 賢 中川 浩 矢倉 千昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0305, 2007 (Released:2007-05-09)

【目的】女性競技者の前十字靭帯(以下ACL)損傷は,男性より高い確率で発生し,特に非接触型損傷が多いことが知られている。その要因のひとつとして性ホルモンの影響が指摘されており,先行研究では月経周期中の性ホルモンの変動とACLとの関係について検討されている。一方,Eiling ら(2006)は,片脚飛びの着地時における制動から筋硬度を測定し,下肢の筋硬度が月経周期に影響されることを報告している。この報告から女性におけるACL損傷と月経周期の関係は,ACLよりも膝関節周囲筋の筋硬度の変化による膝関節へのストレスが関与している可能性がある。そこで,本研究は月経周期中の膝関節周囲筋の筋硬度および短縮度の変化について調査し,性ホルモンが筋硬度に及ぼす影響について検討することを目的とした。【方法】対象者は月経周期の安定した(28日±1~2日)健常成人女性9名(測定18脚),平均年齢25.9±2.1歳であった。全ての対象者に内容を説明し,同意を得た上で測定を行った。月経周期を28日とし,最終月経日より逆算し,月経期(7日目)・排卵期(14日目)・黄体前期(21日目)・黄体後期(28日目)の4期間に分け,それぞれの期間で測定を行った。月経周期の把握と測定日の設定は,測定者以外の者が行い,測定者には対象者の月経周期を知らせなかった。筋硬度は大腿直筋および大腿二頭筋の停止部から25%部位と50%部位を,筋硬度計(NEUTONE,TRY‐ALL社)を用いて測定した。筋短縮度はElyテストとSLRテストの最大伸張時の関節角度を測定した。すべての測定は3回行い,その平均値を代表値とした。統計解析は一元配置分散分析を用いて分析し,危険率5%未満をもって有意とした。【結果】筋硬度は大腿直筋及び大腿二頭筋の50%部位において,他の周期と比較し黄体前期が有意に高値を示した(p<0.05)。筋短縮度は月経周期中における有意な変化はみられなかった。【考察】黄体前期は,エストロゲンが急減し,プロゲステロンが急増する時期であり,これらの変動が膝関節周囲筋の筋硬度に関与していると考えられる。プロゲステロンには,コラーゲン合成を促進させる(蛋白同化)作用があり,この作用によって筋硬度が増加している可能性がある。ACL損傷は,排卵期と月経期に多く,黄体期に少ないといわれている。しかし,膝関節周囲筋の筋硬度とACL損傷との関係については明らかにはなっていない。今後は,月経周期中における性ホルモンの変動と筋硬度,ACL損傷との関連について検討する必要がある。
著者
乃木 章子 塩飽 邦憲 北島 桂子 山崎 雅之 アヌーラド エルデンビレグ エンヘマー ビャンバ 米山 敏美 橋本 道男 木原 勇夫 矢倉 千昭 花岡 秀明 井山 ゆり 三原 聖子 山根 洋右
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION OF RURAL MEDICINE
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.649-659, 2004-11-30
被引用文献数
1 3

農村地域で肥満, インスリン抵抗性, 脂質異常, 高血圧を合併した代謝症候群が増加している。代謝症候群に対しては体重減少が有効とされているが, 白人と日本人では肥満と代謝症候群の関係に差異が見られる。日本人での体重減少と生活習慣変容, 体重減少と代謝症候群の改善についての実証的な研究は少ないため, 体重減少に寄与する要因, 体重減少と代謝症候群改善との関係を研究した。2000~2003年に健康教育介入による3か月間の肥満改善プログラムに参加した住民188名を対象とした。参加者の平均体重減少は1.3kgであり, BMI, ウエスト囲, 血圧,総コレステロール, LDLコレステロール, 中性脂肪の減少, HDLコレステロールの増加を認めた。相関および回帰分析により, 摂取熱量減少, 消費熱量増加が体重減少に寄与していることが明らかになった。一方, 体重変化との有意な相関が認められたのは, 各種肥満指標, 総コレステロール, 中性脂肪, HDLコレステロールであり, 血圧とLDLコレステロールでは有意な相関を認めなかった。体重変化量と有意な相関が認められた血液生化学的検査値の変化量との相関係数は比較的低く, 体重変化量は中性脂肪や総コレステロールの変動の10%以下しか説明しなかった。代謝症候群の改善における体重減少の有効性について, アジア人の民族差に着目した体重減少の有効性に関する実証的な研究が重要と考えられる。
著者
岡 真一郎 矢倉 千昭 緒方 彩 加来 剛 城市 綾子 濱地 望 木原 勇夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A3O1033-A3O1033, 2010

【目的】高齢者が自立した生活を送るためには,下肢筋群の筋力を維持,向上させることが重要である.高齢者における下肢筋群の筋力低下は,歩行能力やバランス能力の低下によって転倒リスクを増加させる.また,転倒は頭部外傷や骨折などの原因となるだけでなく,転倒への不安や恐怖感から行動制限を引き起こし,ADL,QOLの低下を招くことが示されている.これらのことから,高齢者の下肢筋力評価による筋力低下の早期発見は,介護予防における筋力の維持,向上のために重要である.高齢者に対する簡易的な下肢筋力評価には,椅子からの立ち上がり動作を一定回数行ったときの時間,一定時間行ったときの回数を測定値とする椅子立ち上がりテストがよく用いられている.一方,同じ高さの椅子からの立ち上がり動作は,対象者の体重,下肢長など体格の違いによって力学的な仕事量に差が生じることから,立ち上がり回数や時間よりも立ち上がり動作の仕事率(立ち上がりパワー)で評価する方が下肢筋力を反映する可能性がある.そこで,本研究は,糖尿病予防セミナーに参加した壮年女性を対象に10回椅子立ち上がりテスト(Sit-to-Standテスト,以下STS)の立ち上がり時間(STS-time;STS-T)および立ち上がりパワー(STS-Power;STS-P)と等尺性膝伸展力との関係について調査した.<BR>【方法】対象は,島根県出雲市に在住する住民で,糖尿病予防セミナーに参加した女性47名であった.対象者の基本特性は,平均年齢58.3±4.9歳,身長1.55±0.1m,体重54.2±6.7kg,BMI22.6±2.7kg/m2であった.測定は,STS,等尺性膝伸展力の順で行った.STSの測定は,対象者に両上肢を胸の前で組ませ,両下肢を肩幅程度に開き,膝関節を軽度屈曲させ,高さ42cmの安定した椅子から立ち上がって座る動作を10回行った時間(STS-T)を2回測定し,その平均値を代表値とした.STS-Pは,椅子の高さから立位での重心位置までの仕事率とし,立位での重心位置を身長の55%として推定し,STS-P=(身長×0.55-椅子の高さ)×体重×重力加速度×立ち上がり回数/立ち上がり時間,の計算式で算出した.等尺性膝伸展力は,徒手筋力計(μTas F-1,アニマ社)を用い,対象者を診察台に座らせ,徒手筋力計の歪みセンサーをつけたベルトを診察台の支柱に固定し,歪みセンサーを下腿遠位部にあて,股関節90°,膝関節90°屈曲位での等尺性膝伸展力を左右交互に2回ずつ測定した.等尺性膝伸展力の代表値は,左右の最大値の平均値とした.統計解析は,SPSS 11.0J for Windows(SPSS Inc.)を用いて,STS-TおよびSTS-Pと等尺性膝伸展筋力との関係はPearson積率相関分析を行い,危険率5%未満をもって有意とした.<BR>【説明と同意】セミナー開始前,参加希望者から事前に書面にて説明と同意を得てから実施した.なお,本研究は島根大学医学部・医の倫理委員会の承認を得て実施された.<BR>【結果】STS-Tは,等尺性膝伸展筋力と有意な相関はなかったが,STS-Pでは有意な相関があった(r=0.37,p<0.01).<BR>【考察】本研究の結果,STS-Tは等尺性膝伸展力と有意な相関がなかったが,STS-Pでは有意な相関があった.身長から推定した立位での重心位置と体重から算出した立ち上がりパワーは,従来の立ち上がり時間による指標よりも下肢筋力を反映できるのではないかと考える.しかし,STS-Pと等尺性膝伸展力との相関は,r=0.37(p<0.01)と低かった.STS-Pの計算式における重心位置は,身長からの推定値を用いていることから,STS-Pの値に影響を及ぼした可能性がある.また,フィールド調査における徒手筋力計を用いた等尺性膝伸展力の測定では,シートやベルトによる体幹および大腿部の固定が不十分であり,発揮された筋力が部分的に歪みセンサーへの応力として伝達されなかった可能性がある.今後は,地域高齢者やリハビリテーション対象者に対する椅子からの立ち上がりパワーと下肢筋力との関係について,さらなる調査が必要である.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】椅子からの立ち上がり回数や時間を指標とするより,体格を考慮した椅子からの立ち上がりパワーは,地域高齢者やリハビリテーション対象者における簡易下肢筋力評価として有用になる可能性がある.