著者
前田 照夫 續木 靖浩 磯部 直樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

現在中国全土におけるジャイアントパンダ(パンダ)の生息数は約1,000頭,この数は年々減少しており,やがては絶滅の可能性がある。このパンダ絶滅を回避するため,本研究は,パンダの人工繁殖に関する現在の問題点を整理し,パンダの人工繁殖に関する国際学術研究(日中共同研究)の企画を行うことを目的として,パンダの人工繁殖に取り組んでいる日本および中国における代表的な施設を調査した。その結果,(1)自然交配における雄と雌の相性と自然交尾不成立の問題(2)精液採取法の問題(3)精液の凍結保存法の問題(4)雌の発情鑑定の問題がパンダの人工繁殖における重要な点であると考えられた。先ず(1)に関して,複数の雄雌を飼育している場合でも,自然交配がうまくいかず,ましてや1ペアしか飼育していない動物園等の施設では自然交尾が成立する可能性が極めて低く,人工授精の必要性が明確となった。(2)については,現在雄に麻酔を施し,電気刺激法で精液を採取する方法が採用されているが,今後は人工膣を装着した犠牝台の改良も含め,雄にストレスを与えない形での精液採取法の開発が必要であると考えられた。(3)については,依然として古典的な精液保存液が使用されており,斬新な凍結保存液の採用が必要であると考えられた。(4)に関して,雌の発情回数が極めて少なく(通常1年間に1あるいは2回)また,交尾可能な発情期間が短い(2日程度)ため,自然交配あるいは人工授精適期が判断できないところに問題であることが明確となり,性ホルモンのアッセイを含め今後の改良が期待されている最大の問題点であると考えられた。以上の調査結果を基に,国際学術研究の企画書(科学研究費補助金(海外学術調査)を含む)を準備し,応募する予定である。