著者
美根 大介
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○研究目的:鍼灸治療においては四肢末梢部にある経穴の刺激で、疼痛の軽減だけでなく身体の柔軟性が高まることが経験される。これを利用出来れば、高齢者や運動習慣のない人、障害を持つ人々に対して、怪我の予防や運動を行ないやすい身体づくりの一助となる可能性が考えられる。本研究では、この現象を検証し客観的に測定することを目的とする。○研究方法:対象は健常成人6名(平均年齢34.2歳)とした。身体の柔軟性を評価する項目には、体幹および下肢の柔軟性評価として指床間距離と下肢伸展挙上角度を、上肢の柔軟性評価として肩関節屈曲、外旋、内旋角度を測定した。はじめに上記項目を測定し、ストレッチ効果を除外するため1時間以上の間隔を空けた後、コントロール(無刺激)ではそのまま2回目を測定、各経穴への鍼刺激では2回目測定前に30秒間の鍼刺激を行い、1回目と2回目の変化を観察した。使用した経穴は「合谷」「曲池」「足三里」「太衝」の4部位とし、それぞれの経穴ごとに1週間以上の間隔を空けて測定を行った。○研究成果:肢伸展挙上角度、肩関節屈曲、外旋、内旋角度に関しては、コントロール、各経穴刺激ともに大きな変化は認められなかった。指床間距離の前後差はコントロールにおいて平均-6.7mmの柔軟性低下傾向がみられたのに対し、各経穴刺激では「合谷」平均13.31m、「曲池」平均22.5mm、「足三里」平均22.5mm、「太衝」平均20mと柔軟性が高まる傾向がみられた。下肢伸展挙上角度および肩関節可動域に変化がみられなかったことは、対象が健常者であり元々制限が少なかったことや、これらの制限因子が主に靭帯などの伸張性の乏しい組織によることなどが考えられた。指床間距離では背筋鮮を中心とした大きな筋群の影響を受けていることから、鍼刺激による筋緊張の変化が出やすかったものと考えた。今回、部位の違いにおける特異性は見出せず、四肢への鍼刺激は一様に体幹の前屈柔軟性を高める可能性が示唆された。