著者
木原 浩貴 羽原 康成 金 悠希 松原 斎樹
出版者
日本環境学会
雑誌
人間と環境 (ISSN:0286438X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.2-17, 2020-02-10 (Released:2020-08-01)
参考文献数
44
被引用文献数
2

気候変動問題に関する科学的解明が進みその情報が伝わっても,社会変革の重要性の認識は高まらない。この状態は「心理的気候パラドックス」と呼ばれており,これを生み出す心理的障壁に応じて気候コミュニケーションの在り方を再考することが求められている。障壁は国や文化によって異なることから,それぞれの実情を把握することが必要である。本研究では,日本における気候変動問題や対策の捉え方に関するインターネット調査を行い,構造方程式モデリング及び非階層クラスタ分析の結果から,日本の現状を整理した。特に,障壁のひとつとされる認知的不協和に着目して考察を行った。結果,下記の点が明らかとなった。第1に,居住地域や性別に関係なく,多くの人が気候変動対策を「室内の暑さ寒さなどの我慢を伴うもの」と捉えている。第2に,脱炭素社会への態度は倫理観に基づく責任感や,対策の経済への影響の受け止め方に規定される。暮らしの快適さや便利さの向上と脱炭素社会は連想されていない。第3に,障壁のうち「拒否」を抱える群が一定数存在する。この群は30代・男性が有意に多い。第4に,危機感はあるが対策の影響をネガティブに捉える群が最大の割合を占めており,40代が有意に多い。ポジティブに捉える群よりも脱炭素社会の支持度は有意に低く,フレーミングや認知的不協和が心理的気候パラドックスにつながっていることが確認できる。障壁を抱えたまま危機感を高めるコミュニケーションを行っても,脱炭素社会づくりの社会的重要性の認識は高まらず,逆に拒否が強まる可能性もある。心理的気候パラドックスの理論と日本の実情を踏まえて気候コミュニケーションを行う必要があると考えられる。