著者
羽渕 脩躬 羽渕 弘子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

変形性関節炎に伴う膝の慢性疼痛は患者のQOLを左右しており、疼痛の仕組み解明とその抑制が大きな課題である。私たちはマウスのモノヨード酢酸(MIA)誘起膝関節炎モデルにおいて、培養肥満細胞(BMMC)の関節への移入が痛みを引き起こすことを発見し、この系を用いて痛み発生機構解明に取り組んできた。膝の痛みの定量的測定のために、自由行動中のマウスを観察し、両前肢を壁に当てて全立ち上がる回数のうち未処理の下肢のみで立ち上がる回数の割合を求めた。この方法ではVon Frey法では検出できない痛みの変化を観察できた。注射したBMMCが関節内に留まっていることを確認するため、GFP-Tgマウスから作成したBMMCを注入し、GFPとmMCP6(トリプターゼ)の抗体染色で陽性を示す細胞が関節内に存在することを確認した。MIA未処理の関節にBMMCを移入しても痛みを誘起しないので、痛み誘起には関節内炎症によるBMMCの活性化が必要である。脱顆粒した肥満細胞から放出されるトリプターゼは神経細胞のPAR2受容体を活性化することが知られている。痛み誘起へのトリプターゼの関与を確かめるため、PAR2のアンタゴニスト存在下でBMMCを移入したところ、BMMCのみに比べて痛みが顕著に低下した。PAR2のアゴニストをBMMCの代わりに注入したときはPBS注入の対照よりも痛みが増加した。よってトリプターゼが痛みの誘起に中心的な役割を果たしていることが推定された。免疫組織化学により、PAR2受容体は主に表層の軟骨細胞と軟骨膜で発現しており、MIA処理で発現強度が増加した。BMMC移入による痛み誘起に伴い、炎症性サイトカインIL-1b、IL-6,TNF-αおよび痛み関連因子NGF、CGRPの発現が上昇した。アンタゴニス存在下でBMMCを移入したときは痛み誘起が抑制されるとともにこれらの遺伝子発現が低下した。