著者
佐藤 純 稲垣 秀晃 楠井 まゆ 戸田 真弓
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

臨床実験:天気の悪化で疼痛の増強を示す天気痛被験者に対して、40hPa分の低気圧暴露を行うと痛みの増強と交感神経興奮,さらに鼓膜温を上昇させた.2015年3月~2018年6月に当科外来を受診した天気痛患者53名について問診調査を行った.受診患者は女性が多く,痛みに加えて,不安・抑うつはそれほど高くないが,破局化思考が高い傾向にあった。動物実験:野性型マウスに-40 hPa分の低気圧暴露を行うと,上前庭神経核におけるc-fos陽性細胞数(すなわち神経細胞の興奮)が有意に増加することが明らかとなり,半規管あるいは球形嚢に気圧を感知する部位が存在することが示唆された.
著者
佐々木 隆一郎 SUKUMURAN M. GAJALAKSHMI シー.ケイ CHANDRASEKAR アルナ KRISHNAMURTH エス SHANTA V. 岡本 和士 小川 浩 伊藤 宜則 横井 豊治 松山 睦司 M S Sukumura R Swaminatha ARUNA Chandr S Krishnamur V Shanta
出版者
愛知医科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

南インド(マドラス)には、宗教上の理由から肉を食しない菜食主義者が多い。癌登録資料からみたこの地域における乳癌の年齢調整罹患率は人口10万対20.8と、日本と同程度(大阪19.7)である。これは、乳癌の発生要因のひとつとして肉食が考えられているが、肉食以外の乳がんの発生要因を追究するには格好の地といえる。また、研究対象地域のマドラスでの癌研究は、WHOの技術援助を得て完成した癌登録を有するCancer Instituteが中心に行っており、疫学的な研究を行う基盤が整っていた。以上の理由により、1992年7月から、南インド・マドラスにおいて、菜食主義者での乳癌の患者対照研究を行った。患者は、1992年7月以降Cancer Instituteで新たに診断された乳癌患者である。対照は健康対照として病院に入院している患者の家族の中からから性、年齢を一致させた者1人、病院対照としてCancer Instituteを受診した他の部位のがん患者から性、年齢を一致させた者1人を選び、患者対照200セット(600人)を集め、検討した。検討した項目は、問診項目(社会経済状態、生殖歴、栄養素摂取量、心理要因など)、体格(身長、体重)、血清情報(ホルモンレベル、脂質類、ビタミン類など)などの項目である。1993年12月24日現在までに、面接によっての情報収集、体格情報の収集が終了したのは、乳癌患者200人、病院対照200人(乳癌、子宮癌、卵巣癌、甲状腺癌以外の癌)、健康対照200人についてである。個人についての栄養素摂取量の算出、全ての情報の計算機への入力を行った。現在までに心理面の解析から、健康対照に比べ、乳癌患者と病院対照(癌患者)は、ストレスの多いLife event、抑欝的な状態におかれていることなどが伺われた。さらに、病院対照に比べ、乳癌患者はよりこれらの傾向が強いことが示唆された。本研究では、ホルモンレベルの測定のために黄体期に採血を行っているが、上記の対象者の内採血が終了した者は、乳癌患者200人、病院対照200人、健康対照75人であった。初期の予想に反し、健康対照についての採血が困難を極めたので、今回は血液成分のうち、健康対照のホルモンレベルについての検討を断念することとした。血清についての解析からは、健康対照75人についての検討では、マドラスでのβカロテンのレベルは日本よりは低い傾向があること、レチノールのレベルはやや低いがほぼ同程度であることが示唆されている。また、乳癌患者と病院対照のホルモンレベルを比較すると、前者ではエストロゲンE1 75.7pg/ml、エストロゲンE2 42.3pg/ml、エストロゲンE3 2.1pg/ml、後者ではエストロゲンE1 59.4pg/ml、エストロゲンE2 13.3pg/ml、エストロゲンE3 1.2pg/mlであった。また、乳癌患者(197人)についてEIAキット(Trion Diagnostics Inc.)を用いてc-erbB-2蛋白陽性率を測定したが、20U/ml以上を陽性とすると、陽性率は約28%であった。現在、上記の成果をもとに、各研究担当者が業績のまとめを行っている。
著者
西村 直記
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高濃度人工炭酸水への浸漬による生理的効果について検討した。炭酸水の主成分であるCO2は皮膚から吸収されることで、皮膚血管を拡張(末梢循環の改善)させ、温感を促進(高水温による生体への負担軽減)させることが確認できた。また、夜間睡眠前の炭酸水への入浴は、睡眠初期の体温の低下を促進させ、睡眠中の迷走神経活動を亢進させるためにより深い睡眠が得られ、積極的な疲労回復効果が期待できることが明らかとなった。
著者
下村 明子 田中 秀樹 守田 嘉男 張 暁春 三宅 靖子 西田 千夏 島田 友子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

障がい児の平均睡眠時間は8.61時間で健常児より約1時間以上短く,睡眠不足,昼夜逆転も多い。発達障がい児の養育者の平均睡眠時間は平日6.52時間で健常児の養育者より短く,睡眠不足は全体の52.7%,中途覚醒1回以上は80%前後で親子共に良好な睡眠状態ではない。両者の養育者のニーズの違いも明らかで,発達障がい児の養育者は親亡き後の生活保障,子どもの自立,障がいへの理解や支援を強く望んでいる。マットレス下設置センサーのデータから,発達障がい児の入眠困難,昼夜逆転,中途覚醒など健常児との違いが明確に示され,養育者の睡眠に対する意識を高めた。
著者
伊藤 要子 相原 真理子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ストレス環境から生体を防御するため、細胞はストレスタンパク(Heat shock protein : HSP 70)を誘導し、ストレスによる細胞傷害を素早く修復し、細胞を防御(生体防御)している。我々は従来より、HSP 70の生体防御作用を検討してきた。そして予め加温してHSP 70を誘導しておくことにより、次に来る大きなストレスによる傷害を防御できることを平成10、11年度の科研費基盤研究(C)の援助を得て報告した。そして、予備加温により筋肉疲労を防御する結果を得た。この結果は、まさしく運動能力向上を意味し、温熱療法によるHSP 70のスポーツ界への貢献の基盤となった。一方、スポーツもストレスであり、我々は、スポーツというストレスの場に自らを置き、HSP 70を誘導して健康維持に役立てている。そこで、我々は、実際の運動トレーニングに更に、要所に温熱療法を取り入れ誘導されるHSP 70によって競技能力のレベルアップを図ることを目的とした。この温熱療法を取り入れた運動トレーニングを温熱トレーニングと名づけた。そして、低温ミストサウナでの連続加温の条件決定をマウスで検討し、血中リンパ球中HSP 70は、39℃加温2週間で、下肢筋肉中HSP 70は39℃加温3週間で最大となった。よって、レスリング選手に2週間のトレーニングと終了後ミストサウナで39℃10-15分加温し、体力テスト2日前にマイルド加温を実施し、運動トレーニングのみと温熱トレーニング群で体力テストを比較した。その結果、温熱トレーニング群は、体力テスト、HSP 70、NK活性すべてで有意に勝っており、乳酸値も低下しており疲労からの回復も勝っていた。よって、従来の運動トレーニングの考えに、HSP 70の概念を導入し、様々な競技に対する練習・訓練の効果の評価にさいしてHSP 70も指標の1つとして評価する科学的トレーニングが必要と思われた。更に、スポーツを行うに際して、誰もが経験する筋肉痛に対し、これを予防する手段として、マイルド加温による予備加温を検討し有効であることが実証された。医学部学生5人に腕立て伏せ100回、スクワット100回を時間の制限無く実施させ筋肉痛実験を実施したところ、2日前にマイルド加温した予備加温群は自己評価での筋肉痛は有意に減少しており、筋硬度、CPK活性も有意に低下していた。マイルド加温によりHSP 70が誘導され、運動能力が向上することがオリンピックでも、レスリング選手によっても明らかとなった。マイルド加温をスポーツに取り入れた温熱トレーニングは、21世紀のトレーニングとして、HSP 70を指標とした科学的な最先端のトレーニングングである。また、マイルド加温の利用により21世紀のスポーツは、筋肉痛なくスポーツが楽しめる。しかし、このマイルド加温およびマイルド加温によって誘導されるHSP 70の効果は殆ど知られていないのが現況である。多くの人々にHSP 70を知っていただき、自分自身でHSP 70を高め、より健康的にスポーツを楽しんでいただきたい。
著者
羽渕 脩躬 羽渕 弘子
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

変形性関節炎に伴う膝の慢性疼痛は患者のQOLを左右しており、疼痛の仕組み解明とその抑制が大きな課題である。私たちはマウスのモノヨード酢酸(MIA)誘起膝関節炎モデルにおいて、培養肥満細胞(BMMC)の関節への移入が痛みを引き起こすことを発見し、この系を用いて痛み発生機構解明に取り組んできた。膝の痛みの定量的測定のために、自由行動中のマウスを観察し、両前肢を壁に当てて全立ち上がる回数のうち未処理の下肢のみで立ち上がる回数の割合を求めた。この方法ではVon Frey法では検出できない痛みの変化を観察できた。注射したBMMCが関節内に留まっていることを確認するため、GFP-Tgマウスから作成したBMMCを注入し、GFPとmMCP6(トリプターゼ)の抗体染色で陽性を示す細胞が関節内に存在することを確認した。MIA未処理の関節にBMMCを移入しても痛みを誘起しないので、痛み誘起には関節内炎症によるBMMCの活性化が必要である。脱顆粒した肥満細胞から放出されるトリプターゼは神経細胞のPAR2受容体を活性化することが知られている。痛み誘起へのトリプターゼの関与を確かめるため、PAR2のアンタゴニスト存在下でBMMCを移入したところ、BMMCのみに比べて痛みが顕著に低下した。PAR2のアゴニストをBMMCの代わりに注入したときはPBS注入の対照よりも痛みが増加した。よってトリプターゼが痛みの誘起に中心的な役割を果たしていることが推定された。免疫組織化学により、PAR2受容体は主に表層の軟骨細胞と軟骨膜で発現しており、MIA処理で発現強度が増加した。BMMC移入による痛み誘起に伴い、炎症性サイトカインIL-1b、IL-6,TNF-αおよび痛み関連因子NGF、CGRPの発現が上昇した。アンタゴニス存在下でBMMCを移入したときは痛み誘起が抑制されるとともにこれらの遺伝子発現が低下した。
著者
金澤 太茂 小長谷 敏浩 今村 祐志 金山 範明 松永 昌宏 大平 英樹 福山 誠介 篠田 淳 野村 理朗 野木森 剛 金子 宏 各務 伸一
出版者
愛知医科大学
雑誌
愛知医科大学医学会雑誌 (ISSN:03010902)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.59-70, 2007-06

Background: Brain activation areas in relation to bowel stimuli have been reported using brain imaging techniques in patients with irritable bowel syndrome(IBS). However, the results are controversial. The aim of this study is to clarify responsible brain site(s) when stimulated by the rectal balloon distension-induced abdominal symptom in IBS in terms of braingut interactions. Methods: Seven healthy volunteers and five patients with diarrhea-predominant IBS based on the Rome II criteria were recruited. All were right-handed men. Rectal sensitivity was examined with balloon distension using a barostat device. Studies are performed with or without rectal distension(RD). Each task took 4 minutes. The subjects were assigned to have each twice task at the individual pain threshold level with 11 minute intervals. The changes in brain blood flow were evaluated using H_2 ^<15>O-water positron emission tomography. Subjects were asked rectal pain and stress level with visual analogue scale(VAS) before and soon after the respective task. Blood pressure, heart rate, and several serum stress-related substances were also investigated. Results: The threshold of pressure for rectal pain was significantly lower in the IBS patients(IBS=14.4mmHg, volunteers=26.3mmHg on average). The IBS patients showed a significant increase in blood flow in especially insula, and in thalamus at RD as compared with that in volunteers. Analyzing changes in VAS score before and after task, an increase of score about physical stress was significantly larger in the IBS patients in RD although no differences was noted in pain perceived score among all subjects in RD. A tendency of correlation was observed between the RD-induced increment in blood flow in insula and that in VAS score of stress-feeling. Conclusions: The IBS patients had a significantly lower pain threshold against RD. Under RD stress at an individual pain threshold, a significant objective activation in insula, subjective physical stress, and correlation between them were obtained, indicating the brain activation magnitude-correlated stress in IBS.
著者
白井 裕子
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

炊き出しの場所で,ホームレスの人々が主体的に自身の健康に取り組んでいけることを目指した健康支援活動を実施した。自己の健康を知る機会のなかった人々が,それを知ることを通して,健康に対する意識の変化や健康行動を獲得していくことにつながった。また、活動を積み重ねることで「互いに思いやる身近な存在としての関係」が構築された。この関係性は,支援活動の成果であるが、その一方で支援関係の基盤でもあった。
著者
森實 瑠里
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

Alarminの一つとして注目されているadenosineは数.Mの低濃度から強い炎症性サイトカイン産生抑制能を有する。また組織損傷の強い熱傷では血中adenosine濃度が有意に上昇していることが明らかになった。熱傷のさいに遊離されたadenosineは局所における過剰な炎症を抑制する生理的な働きを果たしている可能性が示唆された。
著者
柿崎 裕彦
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

目的:本研究は、ミュラー筋の水平方向の延長と眼球周囲平滑筋との連続性を調べることを目的とした。使用標本:10%ホルマリンで固定された日本人の20眼窩(右10眼窩、左10眼窩)。男性8例、女性8例で、年齢は61歳から93歳、平均年齢は78.4歳であった。方法:眼窩縁を360度切開し、骨膜を眼窩先端部まで剥離する。神経、血管や鼻涙管などの骨壁から出ている構造を切開する。眼窩外側壁をはずし、眼窩縁から3cm後方までの眼窩組織を取り出す。その眼窩組織を上眼瞼縁から15mm上方と眼球の3時、9時を含む面で切る。作成された標本は脱水の後、パラフィン処理し、7μmの厚さで切り、マッソントリクロームで染色した。Masson Trichrome.結果:全ての標本でミュラー筋は内側、外側へ伸びていた。内側では、平滑筋を含む内直筋のプリーへ連続していた。外側では、涙腺眼瞼部の被膜を経由して、外直筋のプリーへ連続していたが、12標本では後部で直接に外直筋のプリーへ連続していた。結論:ミュラー筋は内側、外側へ延びて、眼球周囲平滑筋ネットワークに連続していた。本研究によって、ミュラー筋は上眼瞼での独立した構造ではなく、眼球周囲平滑筋ネットワークの一構成要素であることが明らかになった。
著者
花村 一朗 仁田 正和 飯田 真介 谷脇 雅史 後藤 麻友子 JOHN Shaughnessy
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ヒト骨髄腫細胞株を用いた検討では、染色体1q21領域の増加/増幅の多くは1番染色体そのものまたは長腕の増多に伴って起きたものであり、jumping/tandem translocationといった複雑な転座様式をとったものは約30%であった。未治療MM例とは異なり細胞株においては1q21の増加の有無や増幅様式の差と、13q14欠失、17p13欠失、Ig領域との染色体転座で脱制御されるCCND1やFGFR3、c-MAF、MAFBなどとの間に有意な相関は認めなかった。このことは、細胞株は進行期の病変から樹立されることが多いためと思われるが、MMにおいて1番染色体長腕その中でも特に1q21は特異な領域であることが改めて示唆された。
著者
西原 真理 新井 健一 牛田 享宏
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

感覚過敏は中枢神経感作とも重なる概念であるが、その評価は主観的なものに限られ、他覚的に定量化する試みは成功していない。治療法として弁別能力を向上させることが有効であると推測されるが、その生理学的評価を中心に研究を継続している。これまでは聴覚刺激による皮質反応を検討してきたが、触覚による評価も追加した。一連の研究から、触覚でも聴覚と同様の抑制が見られること、その抑制は情報の階層処理が進むほど強くなること、個体内で聴覚、触覚の抑制率に一定の傾向があることなどが分かっている。新しい生理指標として期待できるものであった。また異なる方法として、音圧変化の程度に応じて反応する聴覚誘発反応変化率(loudness dependence of auditory evoked potentials:LDAEP)についても検討し、それらが不安や特定の性格傾向と関連があるかどうかについて調べている。また、更に感覚過敏を社会関係性の視点から検討するために動物実験を追加している。このために高社会性げっ歯類であるハタネズミを用いた。これまで既に、絆が形成されたペアーを短期間離して飼育すると、機械刺激、熱刺激に対する反応性が増強すること、この過敏性は不安と関連していることを報告している。現在は感覚過敏の治療に応用するための正確な生理学的評価である聴覚、触覚刺激による脳内抑制機構の定量化の成果は得られているが、直接的に治療に結びつけ、論文発表に結びつけ、一定の成果を上げるにはさらに追加実験が必要であると考えたため、研究を1年延長した。
著者
坪井 孝太郎
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

家兎に対して、意図的毛様体解離を作成し、眼圧下降効果を評価し、以下の知見が得られた。0.05mlのヒーロンV(眼科手術用ヒアルロン酸ナトリウム)を使用した毛様体解離では、術前と比較し、術後に一定の眼圧下降効果が得られたが、有意な眼圧下降は1~2週間のみで、術後1ヶ月では術眼と非術眼に有意差は認められなかった。また前眼部OCT検査では毛様体解離の形成は認められたが、毛様体解離の範囲と眼圧下降の相関は認められなかった。また家兎における毛様体解離作成時に、ヒアルロン酸による加圧により頻度は多くないが脈絡膜破裂を生じるリスクが、本検討から明らかとなった。以上より、強膜創からヒアルロン酸ナトリウムを注入することで、意図的毛様体解離を作成することが可能であったが、一定範囲の毛様体解離を再現性を持って作成することは、現在行っている手法ではやや困難である可能性が示唆された。そのため、より安全かつ再現性を高める手法の検討を行った。まず術中の毛様体解離作成に使用するヒアルロン酸ナトリウム量に応じた術前低眼圧状態を作成してから、意図的毛様体解離作成を行った。また眼内観察下にて照明付きカテーテルデバイスを用いた毛様体解離作成をすることで、脈絡膜破裂のリスクを低減し、毛様体解離を作成することが可能であった。また眼内観察下での作成により、毛様体解離範囲の再現性も高まると考えており、今後は毛様体解離範囲の定量的評価にて再現性の評価を検討している。
著者
松永 昌宏
出版者
愛知医科大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

私たち人間には、他者の内的状態を知り、他者が感じるのと同じように感じることができる「共感性」という能力が備わっている。共感性は乳児期からすでに獲得されており、例えば産婦人科内の赤ちゃんベッドが並ぶ部屋では、一人の赤ちゃんが泣きだすと、つられたように周囲の赤ちゃんも激しく泣き出す現象が見られる。これは、最初の赤ちゃんの悲しい感情が周囲の赤ちゃんに伝染したために起こる、情動伝染と呼ばれる最も原始的であると考えられている共感性である。カリフォルニア大学のファウラーらの研究によると、自分の周りに幸せな人が多くいる人は、自身の幸福度が将来的に上昇する確率が高くなるという。このことは、幸福感のようなポジティブ感情においても情動伝染が起こる可能性を示唆するものであるが、ポジティブ感情の情動伝染についてはあまり研究がなされていない。そこで本研究では、場面想定法を用いた共感性課題を用いて、幸福感の情動伝染の分子・神経基盤を明らかにすることを試みた。実験に使用した課題は、こちらが提示する色々な場面に遭遇した時のことを想像してもらい、その際の自身の幸福度はどれくらいかを評価するというもので、場面の感情価(快、不快、中性)×幸せそうな友人の有無(一緒に経験、自分ひとりで経験)の2要因混合計画で実施された。実験の結果、自己評価質問票における喜び感情の伝染得点の高さと、幸福感の伝染の程度との間に正の相関が見られるとともに、下頭頂葉ミラーニューロン活動との間にも正の相関が見られることが示された。また、下頭頂葉ミラーニューロン活動はオキシトシン受容体遺伝子多型、セロトニン2A受容体遺伝子多型と関連していることも見出された。これらの結果から、ポジティブ感情の情動伝染においてもミラーニューロンシステムが関係していることが示唆されるとともに、その活動をオキシトシンやセロトニンが修飾していると考えられる。
著者
野口 裕記
出版者
愛知医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

angiotensinII(AGII)は、強い血管収縮作用などにより高血圧症のみならず腎障害、心筋障害も惹起することが知られているが、近年、ALI/ARDS発症にも関与していることが注目されている。今回私どもは敗血症性ALI/ARDS患者の、血中AGII濃度、アンギオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型を検討することにより、ALI/ARDSとAGIIとの関連、およびAGII血中濃度に影響を与えるACE遺伝子多型と生存率との関連を検討したところAGIIは、ALI/ARDSで高値を示した。しかしながらACE活性が高いとされる(D/D)genotypeにALI/ARDS発症が多いわけではなかった。
著者
横地 高志 杉山 剛志 加藤 豊
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

エンドトキシンとD-ガラクトサミンをマウスに投与すると、実験的エンドトキシンショックが誘導される。この実験的エンドトキシンショックの病態におけるアポトーシスの関与が検討された。エンドトキシンショック誘導マウスの各臓器からDNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動で展開したところ、肝臓に明らかなDNA断片化が認められた。また、ニックエンド法で染色したところ、肝細胞が陽性に染まり、肝細胞がアポトーシスを起こしていることが明らかとなった。また、腎臓も陽性に染色される部分があった。エンドトキシンショック誘発マウスの血清とD-ガラクトサミンとの移入により、アポトーシスが誘導され、アポトーシス誘導に血清中の因子の関与が推定された。抗TNF抗体の投与によって肝アポトーシスが抑制されたことから、エンドトキシンによって遊離された血清中のTNFがアポトーシル誘導因子であることが推察された。TNFとD-ガラクトサミン投与によって、肝アポトーシスが同様に誘導されたことからもTNFの関与は明らかになった。その他のサイトカインによる作用は認められなかった。このエンドトキシンショックに伴った肝アポトーシスにFas抗原の関与を調べるために、Fes抗原陰性のMRL lpr/lprマウスを用いて検討したところ、同様に肝アポトーシスが起こったことから、Fas分子の関与はないと考えられた。以上の結果から、エンドトキシンショックの病態にアポトーシスが関与し、特にTNFが主要な作用分子であることが明らかになった。エンドトキシンショックにおいて、臨床的に肝壊死と呼ばれていた現象が実際は肝アポトーシスであることも示唆された。
著者
宮本 淳 久留 友紀子 仙石 昌也 橋本 貴宏 山森 孝彦
出版者
愛知医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

医学部初年次チュートリアル教育においてクラウドを用いたレポート課題を課し,剽窃行為を中心に,学生のレポート作成過程の調査を続けている。レポートの作業過程を確認していくと,一見して質の低いと思われるWeb上の情報をコピペによって組み合わせ,体裁を整えただけのレポートが少なからず存在する現状が依然としてある。先行研究では,このようなレポートについて学生がどの程度コピペ剽窃をしているかについて,文字数の増加やコピペの頻度などの量的なデータに注目して調査を続けてきたが,コピペ剽窃情報の質については検討してこなかった。どのような教育的介入がコピペ剽窃だけに頼らないレポートの質の向上に繋がるかを考える上で,学生がどのような質の情報に頼ってレポート作成しているのかを調査することは非常に重要な視点であろう。そこで平成28年度の研究では,初年次学生がどのような情報に依拠してレポートを作成しているか,特に情報源の信頼性に着目して調査した。その結果,初年次学生のレポートにおいては情報源として書籍よりもWebを数多く引用していること,Web資料については,四次資料,すなわち三次資料にも該当しない,大学生以上のレポートの根拠として利用できる信頼性を有していないと考えられる資料を多くの学生が利用していることが明らかになった。平成29年度の研究では,こういった問題のあるWeb上の資料をどのように引用,あるいは「コピペ」しているかについてプロセス分析での調査をした。その結果,一次・二次・三次資料からのコピー&ペーストの場合にはその殆どが正しい形式で引用されているのに対して,四次資料の場合は半数以上がその出典は「不記載」であった。レポートを作成する際に,四次資料に依拠する場合には Webページ上の情報をそのままコピペして使用されることに繋がりやすく,その出典は明記されない傾向が明らかになった。