著者
羽生 淳子
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.299-310, 2015-10-01 (Released:2015-12-19)
参考文献数
81
被引用文献数
4 5

考古学は,数百年以上にわたる長期的な文化変化の原因・条件・結果を検討するのに適した学問分野である.本稿では,歴史生態学とレジリエンス理論の視点から,生態システムと生業・集落システムの変化をモデル化する.出発点は,生業の専業化と食の多様性の喪失が,システムのレジリエンスの低下につながるという仮説である.この仮説に基づき,東日本における縄文前期〜中期文化の盛衰について,青森県三内丸山遺跡の事例を,食と生業の多様性と生業・集落システムのレジリエンスの観点から検討する.石器組成の多様性が食と生業の多様性を反映していると仮定した場合,得られた分析結果は,食と生業の多様性の喪失がシステムのレジリエンスの低下につながるとする仮説と矛盾しない.このようなアプローチは,多様性維持と環境負荷軽減の問題を重視し,人間と環境の新しい相互関係性の構築を考えるための学際的研究への糸口となり得る.