著者
羽野 ゆつ子 堀江 伸
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.393-402, 2002-12-25
被引用文献数
3

本研究は,模擬授業および教育実習を経験することによる教員養成系学生の実践的知識の変容を明らかにすることを目的とした。2年次に模擬授業を行い3年次の教育実習に臨むというカリキュラムで教員養成が行われている滋賀大学教育学部をフィールドとし,模擬授業前,模擬授業後(演習後),教育実習後の3回に,同一の学生を対象として,「教材」メタファ生成課題を行った。その結果,以下の諸点が明らかになった。第1に,演習および実習と経験を重ねるにつれ「食」メタファが増え,その質は教材開発,学習,授業展開など多様な側面に言及されるように変化した。授業を複合的に理解するようになった。第2に,演習後以降,授業実践に対する能動性がみられたが自律性は生まれなかった。第3に,実習後は,教師が教える内容を子どもが吸収する授業イメージが強まった。同時に,教材に対する子どもの多様な思考に対応できない不安定さもみられた。第4に,授業における教材の機能として学生は「認知」と「授業展開」を重視しており,自己および関係形成の媒体としての教材の機能は重視されなかった。教員養成の課題として,教材開発演習および実習後の省察の充実が挙げられた。