著者
老木 成稔
出版者
福井大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

膜蛋白質は膜平面上で制限された拡散運動を行い、同種蛋白質間で集合・離散を行うものがある。しかし膜蛋白質の中でもイオンチャネルは、細胞膜上でごく少数のチャネルで細胞機能を担うものもあり、自己組織化によってチャネル機能の発現にどのような関連があるのか十分に検討されてこなかった。私達は原子間力顕微鏡(AFM)によってチャネル蛋白質の新しい動的秩序構造を発見した。チャネルはゲート開閉構造変化に連動して膜状で可逆的な自己組織化を行うのである。一方、チャネルと膜脂質の相互作用がチャネル蛋白質の新しい構造モチーフ(センサーへリックス)を介して行われており、しかもセンサーへリックスがゲート構造変化を制御することも発見した。この2つの発見から導かれることは、チャネル機能発現においてチャネル蛋白質の構造変化が膜脂質との相互作用を変化させ、チャネルの膜内での孤立状態と自己組織化状態の遷移を引き起こしている、というシナリオである。生体膜と異なり、脂質2重膜に精製したチャネルを再構成するにはチャネルの向きを揃えることが不可欠であるが、これまでに方法が確立していなかった。この方法の確立のために多くの実験を行った。またチャネル集合離散状態によってチャネル機能の差を捉えるためには原子間力顕微鏡で捉えられる事象でなければならず、様々な方法を試みてきた。その中で隣り合うチャネル機能に差があるという結果を得つつある。チャネルが膜とどう相互作用するかという点を明らかにする上で膜リン脂質の組成はきわめて重要である。私達は様々なリン脂質を使ってリポソームを形成し、膜上での集合離散状態を蛍光色素で測定した。その結果、リン脂質の組成だけではなく、膜の相分離・厚さなど膜の物理的特性によって集合離散状態が大きく変化することを明らかにした。これらの実験と並行して、複数の共同研究を開始し、新しい結果を得た。