- 著者
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肖 潔
- 出版者
- 北海道大学大学院文学院
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:24352799)
- 巻号頁・発行日
- vol.20, pp.153-166, 2021-03-31
本研究では,交感機能という語用論的観点から雑談の分析を試みた。雑談の本質を見極めるために,話し合いの本題の特徴(形式内容と機能)と対比することで雑談の特徴をとらえた。分析対象として,制度的場面に現れる雑談を選択し,雑談の表現形式と役割を考察した。分析データは東京都議会速記録2020年(新型コロナウイルス感染症対策補正予算等審査特別委員会)を使用した。
本研究では,先行研究を踏まえながら,雑談の定義と判別方法を提案し,雑談の種類及び交感発話との関係も論じた。雑談は,話し合いの本題から逸脱した,交感機能をもつ自由な談話である。雑談の判別には会話の協調原理と交感機能という二つの指標がある。そのなかで,交感機能は雑談の重要な役割であり,会話進行中の雰囲気調整に不可欠な話題であることが明らかになった。雑談の役割は有効な情報伝達をするよりも,安定的な会話状況を作ることに重点があると言えよう。会話中に雑談をすることは,会話の課題を遂行するのには役立たないが,相手と積極的に共感を形成し,近しい関係を構築することができる。とりわけ,議会のような制度的場面においては,自己開示,話の脱線などのような雑談的な発話を本題に挟むことによって,議会の雰囲気が和み,話し合いを活発に進めることができるとみられる。ただし,雑談には幅広い表現例が含まれているため,実際の用例によっては交感機能が強いものから弱いものまで漸次的に存在するのである。また,形式内容面では,雑談は本題との関連性と聞き手にとっての情報価値の有無と関係することが分かった。雑談の内容が聞き手にとって知らない可能性が高ければ高いほど,有効な雑談となるのである。本研究では,東京都議会のような制度的場面では,肩書や年齢を超えた参加者の間に,雑談はどのような形式,どのような役割をもって出現したのかを示した。