著者
脊山 洋石 笠間 健嗣 清水 孝雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1990

脳腱黄色腫(CTX)は先天性の脂質代謝異常症である。胆汁酸の代謝異常ではないかと考えられているが、本態は依然として不明である。疾患モデル動物が得られれば、発症の機序はもとより治療法の検討にも有効な実験系を提供することになる。マウスに高コレスタノ-ル食を投与して、血清、肝、小脳のコレスタノ-ルの濃度変化をHPLCを用いた分析法でモニタ-した。コレスタノ-ルを投与したマウスでは肝臓および血清のコレステロ-ル濃度は短期間でピ-クに達して後に減少して対照群の約50倍で安定する。これに対して小脳ではこのようなフィ-ドバック調節が存在せずに、時間と共に蓄積し続けることがわかった。また、ロ-リングマウスと呼ばれる状態を呈するマウスが出現したことはCTXのモデルと有益である。また、角膜にヒトにおける帯状角膜変性症に似た症状を発現した。この病変部位にはコレスタノ-ルと共にカルシウムとリンが沈着していることが判明した。さらに、マウスへのコレスタノ-ル投与は胆汁酸代謝に影響を及ぼし、4ヶ月間に20%の頻度で胆石を形成することが判明した。胆嚢粘膜の炎症と血管拡張を伴っていた。肝のHMGーCoAレダクタ-ゼ活性が上昇しており、一方、7αーヒドロキシラ-ゼ活性は低下していた。マウスに高コレスタノ-ル食を投与することによって、小脳症状、帯状角膜変性症、胆石症をもたらすことに成功した。後2者については病態の生化学的機構の一端を明らかにすることができた。帯状角膜変性症の発症の機構は小脳症状の現われをも説明するものであり、今後このマウスにおける小脳の生化学的分析が小脳症状発現の病態を明らかにするものと期待される。我々が現在進めているCTXの遺伝子診断のプロジェクトの分析対象となっている家系では、胆石症と肝胆道系腫瘍が多発しており、上記の第3の知見もCTXとの関連を説明するうえで重要な意味を有するものと思われる。