著者
臼井 エミ 大島 朋子 山崎 弘光 井川 聡 北野 勝久 前田 伸子 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.101-108, 2015 (Released:2015-05-07)
参考文献数
24

目的 : 大気圧低温プラズマ照射は, 生成された活性酸素種の環境を酸性条件にすること (低pH法) で, 各種口腔病原微生物の菌液とバイオフィルムに殺菌効果を示すことが報告されており, 医療において実用的な殺菌技術である可能性が期待されている. 本研究では, プラズマ低pH法がヒト感染象牙質モデル歯のう蝕感染象牙質を無菌化しうるか検討した.  材料と方法 : ヒト大臼歯咬合面に直径3mm, 深さ3mmの窩洞を形成後, オートクレーブ滅菌した. 窩洞内を乳酸で2日間脱灰後Streptococcus mutans (ATCC25175株) の菌液 (106-7 CFU/30μl, trypticase soy broth with dextrose[TSBD], 5% carboxymethyl cellulose sodium salt[CMC]で調整) を7日間毎日接種し, 象牙質が極度に軟化しう蝕検知液で濃染する「う蝕象牙質外層」を作製した. 試験は, 試作モデルのLFジェット回路を使用しプラズマ未照射群 (ヘリウムのみ照射) と, プラズマ照射群 (ヘリウムプラズマ照射 : 30, 60, 120, 180秒群) の5群で, pH 3.5で評価した. 180秒群は, 中性付近 (pH 6.5) での実験も行った. プラズマ照射前後にラウンドバーで感染象牙質を採取し, brain heart infusion (BHI) 培地に懸濁し, 寒天培地上に塗抹後2日間培養し, CFU/round burを算出した. 統計解析にはWilcoxon検定を使用した (α=0.01).  結果および考察 : 照射前の生菌数はすべて2.7±1.9×105で, 検出限界は2 CFU/round burである. 大気圧低温プラズマはpH 3.5の環境下で, 感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では感染象牙質をほぼ完全に無菌化した (検出限界以下). 一方, pH6.5の環境下では照射180秒後でも殺菌効果がみられず, プラズマ照射せず酸性環境下に置く条件では, 感染歯質は殺菌されなかった. 殺菌効果がpHおよび照射時間依存的であった理由は, プラズマ照射により活性種が発生し, これが低pHのバッファー内部に取り込まれ, バッファー中のO2-ラジカルがHOOラジカルに変換されるためと考えられる. バッファー内で照射時間依存的に濃度の高まったHOOラジカルが高い殺菌効果を示すと思われる. pH 3.5については, 殺菌に必要な照射時間では生体為害が少ないと考えられ, 今後, 供給活性種の量を増やし無菌化に必要な時間を短くできる可能性がある.  結論 : 大気圧低温プラズマは, pH 3.5の環境下で感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では無菌化した.