著者
平尾 千波 後藤 美樹子 池島 巌 大島 朋子 湯浅 茂平 向後 生郎 亀井 優徳 五味 一博 前田 伸子 新井 高 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.255-263, 2009-06-30 (Released:2018-03-30)
参考文献数
23

本研究では,古くから飲料・食品として親しまれてきたココアを含有した試験研磨材を試作し,その有用性について,ウシ歯を用いたin vitro試験と臨床試験によって検討した.In vitro試験では,試験研磨材として,純ココア(森永製菓)を蒸留水に縣濁させ,0.2g/mlココア溶液(ココア研磨材)を作製した.比較対照として,0.2g/mlリン酸水素カルシウム水溶液(リン酸水素カルシウム研磨材)と,蒸留水を用意した.ウシ抜去歯を紅茶液に浸漬し,歯面を着色させた.ココア研磨材,リン酸水素カルシウム研磨材,蒸留水の3グループにウシ歯を分類し,各試験研磨材を用いて研磨を行った.研磨は,ウシ歯唇面の被験部位に対し,ポリッシングブラシにて,同一条件下で行った.着色前,着色後,3分間研磨後,6分間研磨後において,被験部位を分光式色彩計にて測色し,CIEL*a*b*で表示した.着色後と3分間研磨後の色調,着色後と6分間研磨後の色調それぞれについて色差(ΔE*ab)を算出し,各試験研磨材の違いについてTukeyの多重比較を行った(α=0.05).さらに,ココア溶液による歯面の着色が生じるか否か検討するため,ココア溶液(4g/100ml)を作製し,別に準備したウシ歯を浸漬した.ココア溶液浸漬前後の色調変化を,紅茶液に浸漬前後の色調変化と比較した.臨床試験では,ココアパウダー含有の試作歯磨剤を使用する被験歯磨剤群と,ココアパウダー不含有の試作歯磨剤を使用するプラセボ群に被験者を分け,1ヵ月間使用した前後の前歯の色調の測定と,プラーク指数(PLI,Silness&Loe法)の判定を同一評価者により行い,二重盲検法により比較検討した.結果は,Mann-Whitney U testで解析した(α=0.05).In vitro試験の結果,ココア研磨材による研磨前後の色差は,蒸留水による研磨前後の色差に対し有意に大きい値を示した.ココア研磨材による研磨前後の色差と,リン酸水素カルシウム研磨材による研磨前後の色差に有意差はなかった.各試験研磨材の研磨前後の色差は,3分間研磨前後,6分間研磨前後の間で大きな変化はみられなかった.また,ココア溶液にウシ歯を浸漬した場合,紅茶とは異なり,ほとんど着色は生じなかった.臨床試験の結果,試験期間前後における歯の明るさの差とプラーク除去効果は,被験歯磨剤群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった.以上の結果より,ココアパウダーを含有した試験研磨材は,歯面着色除去効果を有することが示されたが,歯磨剤への臨床応用試験において,今回の試験条件下では有意差を認めるまでにはいたらなかった.
著者
坂本 富則 山本 雄嗣 秋本 尚武 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.38-45, 2012-02-29 (Released:2018-03-15)
参考文献数
10

金属鋳造修復歯を金属接着性プライマーを用いて補修修復する場合,プライマーを金属部のみに塗布することは難しく,歯質接着性プライマーやセラミック接着性プライマーが金属部に付着することも少なくない.本研究は,補修修復の際の金銀パラジウム合金に対する金属接着性プライマーとシランカップリング剤の併用塗布が接着強さに与える影響について検討するとともに,被着面の研削条件の違いが接着強さに与える影響について検討を行った.金銀パラジウム合金を用い,通法に従って鋳造体を作製した.被着面は,シリコンカーバイドペーパー#600,カーボランダムポイント,アルミナサンドブラスト(50μm)の3条件で処理した.3種の金属接着性プライマー(アロイプライマー®;クラレメディカル,メタルプライマーII®;ジーシー,V-プライマー®;サンメディカル)を塗布,シランカップリング剤(クリアフィルポーセレンボンドアクティベーター®;クラレメディカル)を用いクリアフィルメガボンド®(クラレメディカル)で処理,クリアフィルSTオペーカー®(クラレメディカル)およびクリアフィルAP-X®(クラレメディカル)にて接着試験片を作製した.試験片は37℃水中保管48時間後,引張接着試験を行った.結果として,金銀パラジウム合金では金属接着性プライマー処理により接着強さの向上が認められた.シランカップリング剤塗布による接着強さへの影響は認められなかった.接着強さは被着面の研削条件に影響され,アルミナサンドブラスト処理したものが最も高い接着強さを示した.3種の金属接着性プライマーの問に接着強さの差は認められなかった.
著者
原 麻由子 秋本 尚武 大森 かをる 桃井 保子
出版者
日本接着歯学会
雑誌
接着歯学 (ISSN:09131655)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.226-236, 2004-12-15 (Released:2011-06-07)
参考文献数
11

コンポジットレジンの表面性状の違いが表面滑沢材の物性におよぼす影響を, 超微小押し込み硬さ試験およびSEM観察により検討した.被着体としてコンポジットレジンを使用し, 光重合前, 光重合後, そして光重合後にレジン表面を研削し未重合層を除去した3つの条件を被着面とした.使用した表面滑沢材は, コンポジットレジンの表面滑沢材であるBisCoverと「ホワイトコートTM」に含まれるトップコートの2種類である.各被着体表層に表面滑沢材を塗布し, 光重合後表面滑沢材表層および断面における硬さを超微小押し込み硬さにより測定した.結果より, 被着体となるレジン表層に未重合層が存在する場合, トップコートは表層の硬さが低いのに対し, BisCoverは硬さに違いが認められないことから, トップコートの重合は被着体の状態に影響を受けることが示唆された.
著者
臼井 エミ 大島 朋子 山崎 弘光 井川 聡 北野 勝久 前田 伸子 桃井 保子
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.101-108, 2015 (Released:2015-05-07)
参考文献数
24

目的 : 大気圧低温プラズマ照射は, 生成された活性酸素種の環境を酸性条件にすること (低pH法) で, 各種口腔病原微生物の菌液とバイオフィルムに殺菌効果を示すことが報告されており, 医療において実用的な殺菌技術である可能性が期待されている. 本研究では, プラズマ低pH法がヒト感染象牙質モデル歯のう蝕感染象牙質を無菌化しうるか検討した.  材料と方法 : ヒト大臼歯咬合面に直径3mm, 深さ3mmの窩洞を形成後, オートクレーブ滅菌した. 窩洞内を乳酸で2日間脱灰後Streptococcus mutans (ATCC25175株) の菌液 (106-7 CFU/30μl, trypticase soy broth with dextrose[TSBD], 5% carboxymethyl cellulose sodium salt[CMC]で調整) を7日間毎日接種し, 象牙質が極度に軟化しう蝕検知液で濃染する「う蝕象牙質外層」を作製した. 試験は, 試作モデルのLFジェット回路を使用しプラズマ未照射群 (ヘリウムのみ照射) と, プラズマ照射群 (ヘリウムプラズマ照射 : 30, 60, 120, 180秒群) の5群で, pH 3.5で評価した. 180秒群は, 中性付近 (pH 6.5) での実験も行った. プラズマ照射前後にラウンドバーで感染象牙質を採取し, brain heart infusion (BHI) 培地に懸濁し, 寒天培地上に塗抹後2日間培養し, CFU/round burを算出した. 統計解析にはWilcoxon検定を使用した (α=0.01).  結果および考察 : 照射前の生菌数はすべて2.7±1.9×105で, 検出限界は2 CFU/round burである. 大気圧低温プラズマはpH 3.5の環境下で, 感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では感染象牙質をほぼ完全に無菌化した (検出限界以下). 一方, pH6.5の環境下では照射180秒後でも殺菌効果がみられず, プラズマ照射せず酸性環境下に置く条件では, 感染歯質は殺菌されなかった. 殺菌効果がpHおよび照射時間依存的であった理由は, プラズマ照射により活性種が発生し, これが低pHのバッファー内部に取り込まれ, バッファー中のO2-ラジカルがHOOラジカルに変換されるためと考えられる. バッファー内で照射時間依存的に濃度の高まったHOOラジカルが高い殺菌効果を示すと思われる. pH 3.5については, 殺菌に必要な照射時間では生体為害が少ないと考えられ, 今後, 供給活性種の量を増やし無菌化に必要な時間を短くできる可能性がある.  結論 : 大気圧低温プラズマは, pH 3.5の環境下で感染象牙質中のS. mutansを照射時間依存的に有意に減少させ, 照射時間180秒では無菌化した.