著者
松本 紘典 中田 康城 蛯原 健 加藤 文崇 天野 浩司 臼井 章浩 横田 順一朗
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.877-885, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20

飲食物による咽喉頭および食道熱傷は臨床上,しばしば経験されるが,その報告例は少ない。今回,我々は90℃の高温飲料の摂取後に緊急気道確保を要する咽喉頭熱傷および遅発性瘢痕狭窄を来した食道熱傷の1例を経験したので報告する。症例は28歳の男性。飲酒の席で約90℃のコーヒーを約200ml飲用し,呼吸苦・嚥下痛にて当院受診となった。来院時,上気道粘膜の腫脹が強く,喉頭ファイバーにて喉頭蓋および声帯の腫脹も認め,気道緊急の状態にあり,気管切開による緊急気道確保を行った。咽喉頭熱傷については,経時的に粘膜腫脹は軽快してきたものの喉頭蓋の腫脹が遷延し,容易に誤嚥する状況が続いた。喉頭蓋の腫脹改善とともに第39病日に気管切開チューブを抜去でき,その後も瘢痕形成などは来さなかった。食道熱傷について,受傷早期は食道穿孔等を来さずに経過したが,第25病日に吐血のため,上部消化管内視鏡検査をしたところ,下部食道を中心として食道全長に渡る粘膜の易出血性びらん,潰瘍所見を認めた。第40病日に再度上部消化管内視鏡検査を施行したところ,内視鏡通過は可能であったが,散在性に瘢痕狭窄所見を認めた。粘膜所見は治癒経過にあり,流動食より食事を開始し,第48病日の食道透視検査にて全体的に伸展不良を認めたが,普通食まで摂取可能となったため,第53病日に退院となった。しかしながら,その後も緩徐に食道狭窄は進行し,食道拡張術も奏功せず,第264病日に食道切除術施行となった。温熱熱傷においても,上気道閉塞および遷延する喉頭蓋腫脹に伴う嚥下障害に対する気道管理や,食道瘢痕狭窄に対する経時的な評価,治療が必要である。