著者
與那嶺 司
出版者
関西福祉大学研究会
雑誌
関西福祉大学研究紀要 (ISSN:13449451)
巻号頁・発行日
no.7, pp.205-226, 2004-03

社会福祉基礎構造改革のもと,2003年4月には知的障害も含めた障害分野において支援費制度が始まった.支援費制度が開始される前から,施設から地域へという厚生労働省のかけ声とは異なるホームヘルプサービスをめぐるサービス内容の変更に,障害者団体が異議を申し立てるといった場面もあった.そこには,社会福祉基礎構造改革の掲げる理念と具体的な制度内容との齟齬を見ることができる. しかしながら,いくつかの課題を抱えつつも,「措置から契約へ」,「施設福祉から地域福祉へ」,または「依存から主体性の尊重へ」といった制度改革の底流は止めることはできないということもまた事実である. そのような状況のなか,知的障害のある人たちへの援助を考える際,地域生活支援といった視点が注目されるようになってきた.これまで,知的障害分野においては,「施設」,とくに「入所型施設」を中心としたサービス提供,しかも,治療教育体系としてのサービスの位置づけに歴史的特徴があった.それゆえ,研究や実践の範囲にもこれらの特定された内容が反映され,ソーシャルワークという援助方法はあまり注目されなかったといえる.しかしながら,制度変革におけるクライエントとの契約,地域生活支援,そしてクライエントの主体性といった新しい考え方は,ソーシャルワークの視点とあい重なる部分を多くもつ.これまでも,知的障害分野におけるソーシャルワークに関する研究はなされているが,その数は少ない.しかしながら,現在の知的障害者福祉における状況を考えると,知的障害分野において,実践的にも研究的にも,これまであまり関心が向けられなかったソーシャルワークというテーマについて,再度その手法や概念等を整理する必要性が今後出てくるであろう. そこで,基礎的な作業として,まずソーシャルワーク先進国である米国における知的障害分野のソーシャルワークの実態を把握し整理することは,日本における知的障害のある人たちに対するソーシャルワークを考える上で必要であると考える.ただし,米国における知的障害のある人たちに対するソーシャルワークといっても,実践,研究,そして教育などその範囲は幅広い.その中で,本稿における著者の関心の所在は,知的障害とソーシャルワークの関係がどのようなものであったか,そしてその関係のなかでソーシャルワーカーはどのような役割を果たしていたのかというところにある.そこで,本稿においては,米国における知的障害とソーシャルワークの関係についての歴史的な変遷とそこにおけるソーシャルワーカーの役割を考察する.まず,米国における知的障害とソーシヤルワークの関係について歴史的にその変化を辿り,なぜソーシャルワークと知的障害分野との関係が概して疎遠であるかについて考察する.そして, Maryによる知的障害のある人たちに対するサービスによる3つの時代区分と,それぞれの時代に必要とされたソーシャルワーカーの役割を説明し,最後に,そこから日本におけるソーシャルワーカーが今後担うであろう役割を提示したい.