- 著者
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舘花 美沙子
大隅 典子
- 出版者
- 一般社団法人 日本DOHaD学会
- 雑誌
- DOHaD研究 (ISSN:21872562)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, no.2, pp.52-62, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)研究において、母親側の因子、とくに胎児期の環境などについてはよく研究されている。一方、父親側の因子がリスクとなる表現型として、低体重出生とともに自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)が知られている。父側のリスクはPOHaD (Paternal Origins of Health and Disease)として、新たに注目され始めている。近年のASD患者の増加の背景となる生物学的要因の一つとして、結婚年齢の上昇等に伴う父親の高齢が挙げられ、胚や胎児期の母体環境だけではなく、父側の生殖細胞の状態が子どもの神経発達症発症リスクに寄与するという報告が増えている。とくに、卵子と異なり、膨大な回数の細胞分裂を経て一つの幹細胞から多くの精子が産生される精子形成では、加齢によるゲノムの変異やエピゲノムの変化が起きやすいとも考えられる。De novoのゲノム変異が子どもの神経発達症の発症リスクに寄与する可能性も指摘されているが、近年はDNAメチル化をはじめとするエピゲノムの変化と疾患の関連も明らかになりつつあり、これまで解明されていなかった疾患の発症メカニズムの理解に向けて研究が進んでいる。その他、ヒストン修飾およびnon-coding RNAなども、加齢により変化するエピゲノム因子として報告されている。このような、雄性生殖細胞の持つ疾患発症リスクが実際に疾患を引き起こす分子メカニズムやその相互作用の解明は、新たな治療法・予防法の開発にもつながると期待される。本稿では、とくに父加齢に着目して、雄性生殖細胞で起こりうるエピゲノムの変化について紹介する。