著者
金高 有里 小林 道 土肥 聡 荻原 重俊
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.69-75, 2021 (Released:2021-12-02)

【目的】我が国では、胎児の神経管閉鎖障害のリスク低減のために、妊娠を計画している女性、妊娠の可能性がある女性及び妊娠初期の妊婦は、通常の食品から摂取する葉酸以外に、サプリメントや食品中に添加される葉酸(狭義の葉酸)を400 ㎍/日摂取することが望ましいとされている。受胎期に重要な葉酸サプリメントの摂取が普及する一方で、海外において母親の葉酸過剰摂取による児の喘息発症のリスクが報告されている。そこで本研究では日本における妊娠期の葉酸サプリメントの摂取と児の喘息発症リスクとの関連を検討した。 【方法】2014年7月から8月に、北海道札幌市、石狩市の計17か所の保育所に通う児童の保護者589人を対象に、児の性別と月齢、児の喘息の有無と発作頻度、児のRSウイルス罹患状況、両親の喘息の有無と発作頻度、両親の喫煙歴、妊娠前および妊娠20週まで(妊娠前半期)と 21 週以降(妊娠後半期)のサプリメントによる葉酸摂取状況について自記式質問紙調査を行った。解析対象は、児の性別、児の月齢、喘息の有無、妊娠期の葉酸サプリメント摂取の有無について欠損が無かった305人(51.8%)とした。 【結果】多重ロジスティック回帰分析の結果、葉酸サプリメント非摂取群と比較した摂取群の喘息有症の調整オッズ比は、4.54(95%CI: 1.20-17.30)であった。 【考察】本研究では、妊娠期の葉酸サプリメント摂取と喘息の罹患に正の関連が見られた。妊娠期に葉酸サプリメント摂取が無かった群と比較して、葉酸サプリメントを摂取していた群で喘息の有症率が高かった。葉酸摂取を否定するものではないが、本研究の結果から、葉酸サプリメントの摂取は、児の喘息発症のリスクであることが示された。
著者
蒲原 聖可
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.6-25, 2021 (Released:2021-12-02)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症(COVID-19)がパンデミック(世界的大流行)となり、効果的な予防法や治療法の確立が急がれている。妊婦での感染例も報告されており、妊娠・出産アウトカムに対するCOVID-19の影響が懸念されている。現時点では、国内発症の妊婦でのCOVID-19による死亡例は報告されていない。本邦では、妊婦中期の感染が多く、主な感染経路は家庭内感染である。当初、国内事例の妊婦患者では、重症化リスクは高くはない、とされていた。しかし、妊娠後期の妊婦ほど重症化しやすいとの報告もあった。現在、本邦でも「妊娠後期」は、「重症化のリスク因子」の一つとされている。 国外のデータを含むメタ解析では、COVID-19感染妊婦は、同年代のCOVID-19感染の非妊婦と比べると、ICU入院リスク、人工呼吸器管理リスク、死亡リスク、早産リスクが有意に高いとされた。妊婦での重症化リスク因子は、35歳以上、肥満(BMI30以上)、高血圧、糖尿病、喫煙である。胎児および新生児への影響に関して、まず、垂直感染の可能性は否定できない。一方、母乳を介した感染リスクは低く、母乳栄養が推奨される。 最新のCOVID-19診療の手引きでは、「妊婦がCOVID-19 に感染しやすいということはない」、「妊娠中に感染しても重症化率や死亡率は同年齢の女性と変わらない」、「妊娠初期・中期の感染で胎児に先天異常を起こすという報告もない」、「しかし,妊娠後期に感染すると,早産率が高まり,患者本人も一部は重症化する」とされている。 公衆衛生上のCOVID-19対策では、SARS-CoV-2感染予防として原因ウイルスへの暴露機会を減らすための啓発が行われている。一方、宿主となるヒトでの感染に対する抵抗力を高める、といった対策も重要である。ビタミン類やミネラル類の充足は、免疫能の維持に必須であり、抗ウイルス作用や抗炎症作用なども報告されている。さらに、サプリメントを用いた介入試験により、ウイルス性呼吸器感染症に対するリスク低減作用が報告されてきた。 本稿では、妊娠期におけるCOVID-19の影響を明らかにし、withコロナ時代における臨床栄養の視点から、妊婦での感染予防および軽症者の重症化予防のための機能性食品成分の臨床的意義を概説する。
著者
横田 理 押尾 茂
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.103-108, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)

医薬品候補化合物のおよそ10%弱に精巣毒性が生じる。この毒性は結果として、精子形成サイクルを経て精子へと伝わるため、生殖細胞系列に生じたゲノム異常が精子まで残され蓄積すると、受精を介して父親由来の先天異常などの発生毒性のリスクとなり得る。本稿では、化学物質と精巣毒性について概要を整理し、Developmental Origins of Health and Disease (DOHaD) 学説では比較的評価の遅れている雄性生殖の側から発生・発達毒性を考える場としたい。
著者
中村 彰男 河原田 律子
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.117-125, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)

日本では、社会システムの変化に伴い出産年齢は上昇し、糖尿病合併妊娠や妊娠糖尿病が増えている。糖尿病の母親の子宮内環境では、胎盤を介した高血糖状態が、過度なタンパク質の糖化反応による終末糖化産物(AGEs)の産生やその受容体を介した酸化ストレスや炎症を引き起こし、その結果、胎児の各臓器にインスリン抵抗性などのシグナル伝達障害をもたらすと考えられる。胎児期のシグナル伝達障害は、子どもの将来の疾患発症と深く関係することが明らかとなっている。実験モデル動物やモデル細胞を用いた我々の研究によって得られた、母体の糖代謝異常が胎仔に与える影響の分子機構の解明について最新の知見を紹介する。また、母体のインスリン抵抗性に対する薬物療法として、本邦ではインスリン以外の経口血糖降下薬の妊婦への使用は認められていないため、一次予防としての先制医療に繋がる機能性食品の探索研究の重要性についても論じる。
著者
舘花 美沙子 大隅 典子
出版者
一般社団法人 日本DOHaD学会
雑誌
DOHaD研究 (ISSN:21872562)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.52-62, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)

DOHaD (Developmental Origins of Health and Disease)研究において、母親側の因子、とくに胎児期の環境などについてはよく研究されている。一方、父親側の因子がリスクとなる表現型として、低体重出生とともに自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)が知られている。父側のリスクはPOHaD (Paternal Origins of Health and Disease)として、新たに注目され始めている。近年のASD患者の増加の背景となる生物学的要因の一つとして、結婚年齢の上昇等に伴う父親の高齢が挙げられ、胚や胎児期の母体環境だけではなく、父側の生殖細胞の状態が子どもの神経発達症発症リスクに寄与するという報告が増えている。とくに、卵子と異なり、膨大な回数の細胞分裂を経て一つの幹細胞から多くの精子が産生される精子形成では、加齢によるゲノムの変異やエピゲノムの変化が起きやすいとも考えられる。De novoのゲノム変異が子どもの神経発達症の発症リスクに寄与する可能性も指摘されているが、近年はDNAメチル化をはじめとするエピゲノムの変化と疾患の関連も明らかになりつつあり、これまで解明されていなかった疾患の発症メカニズムの理解に向けて研究が進んでいる。その他、ヒストン修飾およびnon-coding RNAなども、加齢により変化するエピゲノム因子として報告されている。このような、雄性生殖細胞の持つ疾患発症リスクが実際に疾患を引き起こす分子メカニズムやその相互作用の解明は、新たな治療法・予防法の開発にもつながると期待される。本稿では、とくに父加齢に着目して、雄性生殖細胞で起こりうるエピゲノムの変化について紹介する。