- 著者
-
舩越 進太郎
田中 浩之
- 出版者
- 日本鱗翅学会
- 雑誌
- 蝶と蛾 (ISSN:00240974)
- 巻号頁・発行日
- vol.54, no.2, pp.125-130, 2003-03-30
雌が翅をもたない幼虫型で,一生をミノの中で過ごすミノムシは,幼虫の空中分散が知られる.チャミノガEumeta minuscula Butlerの孵化幼虫を使って幼虫分散を観察した.半透明のプラスチック容器にミノを作る前の孵化幼虫を入れ,扇風機の風を送って分散数や飛翔距離を測定した.暗室内で容器の口を下にし,下から懐中電灯の光を当てた場合,7分間で約60%の幼虫が分散した.それに対し,明るい部屋で容器を上に向けた場合,幼虫は容器の口の周りを回るだけであり,下に向けた場合は上になった底に集まって,ほとんど分散は見られなかった.孵化幼虫にとって負の走地性よりも正の走光性が優先した.約50匹の孵化幼虫を垂直に敷いたろ紙の上に置き,暗室内で光を一方向から当てると,光の方向に向かう走光性を示したが,下に向かう幼虫の移動速度(0.939±0.183mm/sec.)は左右に向かうもの(1.139±0.175mm/sec.,1.152±0.152mm/sec.)より劣っていた.光源をなくした場合は個体によってまちまちで,移動の方向は定まらず,負の走地性はみられなかった.また,移動速度も0.17mm/sec.から0.46mm/sec.の間で,光源に向かう速度に比べて遅いものであった.孵化幼虫の走光性の強さは,ミノの口は下に開口しており,ミノ上部で孵化した幼虫が開口部に向かうことを考えれば当然といえる.また,扇風機の風を3段階に切り替えて実験を行ったが,孵化幼虫の分散数にはほとんど差がなく,ミノガ孵化幼虫は強風を待たずに分散していると推測された.飛翔距離は強風の下で長かったが,自然界では室内の扇風機のように風源から離れると風速が弱まることはなく,弱風でも風に乗って遠くまで分散するものと考えられた.しかし,それぞれの方向から光を当てた場合,孵化幼虫が左右に向かうより,下に向かう方が遅い理由は理解できなかった.