著者
芝山 雄老 松本 和基 斉藤 雅文 中田 勝次
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.21, no.10, pp.1283-1294, 1980-10-25 (Released:2010-01-19)
参考文献数
38
被引用文献数
4 5

肝細胞は低酸素に極めてvulnerableであり,空胞変性は低酸素による最も初期の光顕的変化で,それが小葉中心帯に好発する理由は周辺帯よりも中心帯がより低酸素状態になるためであると信じられている.著者は肝細胞の空胞変性がいかなる条件下で発生するかを摘出肝潅流実験で検討した.その結果,低酸素血で5時間以上潅流しても肝機能(胆汁産生量・酸素消費量)が低下するのみで空胞変性は発生しなかった.一方,高酸素血で潅流しながら下大静脈圧を60~70mmH2Oに上昇させると小葉中心帯の肝細胞に空胞変性が発生し,さらに圧を上昇させると小葉周辺帯の肝細胞にも発生してきた.また,160mmH2O以上の門脈圧で潅流すると小葉周辺帯の肝細胞に空胞変性が発生した.以上の実験成績より,肝細胞の空胞変性の発生には類洞内圧上昇が重要であり,低酸素血症はその直接的原因ではないと結論した.空胞変性が小葉中心帯に好発する理由は同部のcritical sinusoidal pressureが周辺帯のそれよりも低いためと考えられた.
著者
芝山 雄老 松本 和基 大井 玄 中田 勝次 筧 紘一 清水 修 茂在 敏司 榊原 茂樹 佐藤 久夫 小林 茂保
出版者
The Japan Society of Hepatology
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.208-216, 1983

ヒトβ型インターフェロン(HuIFN-β)投与肝細胞癌の一症例を経験した.症例は62歳男,会社役員.入院時すでに肝右葉全域および左葉の一部に肝細胞癌が認められ,手術不可能と判断し,HuIFN-βの大量投与(筋注総量4,671×10<SUP>4</SUP>IU,静注総量2,866×10<SUP>4</SUP>IU,肝動脈内注入250×10<SUP>4</SUP>IU)が行われた.肝動脈内注入直後一過性にα-Fetoprotein値の低下が認められたが,筋注および静注では著効を示さず,癌は徐々に増大した.病理解剖学的には多核巨細胞化した癌細胞および原形質が泡沫化した癌細胞の出現および癌細胞の壊死に陥る傾向の乏しいことが注目された.これらの所見はHuIFN-β非投与肝細胞癌例にも多少認められるので,HuIFN-β投与による特異的変化であるとは言えないが,それらの程度が著しく高度であったことよりHuIFN-β投与と何らかの関係が存在するのではないかと考えられた.本症例では臨床的にも病理解剖学的にも肝細胞癌に対するHuIFN-βの著しい治療効果は認められなかった.