著者
宮里 実 芦刈 明日香
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.155, no.1, pp.16-19, 2020
被引用文献数
1

<p>腹圧性尿失禁(SUI)は,中年女性にみられる一般的疾患で,生活の質を著しく損なう.一方で,臨床的に,あまり有効な薬剤はない.妊娠,出産に伴う女性特有の成因に起因し,尿道過可動と内因性括約筋不全の二つに大別される.腹圧尿失禁の病態,創薬開発にあたって,直接的,間接的陰部神経損傷モデルが使用されている.私達は以前,脳梗塞ラットも尿禁制反射が減弱していることを報告した.SUI評価法として,リークポイント圧測定や尿道マイクロチップ法があり,私たちは後者にくしゃみ刺激を利用する独自の評価方法を確立した.実際,中枢にはSUIの標的が数多く存在することが明らかとなってきている.特に,ノルエピネフリン,セロトニン(5-HT)が標的で,陰部神経核(オヌフ核)周囲に存在するα<sub>1</sub>受容体,5-HT<sub>2C</sub>,5-HT<sub>7</sub>が尿禁制反射を増強,α<sub>2</sub>,5-HT<sub>1A</sub>が減弱することが明らかとなっている.さらに,脊髄オピオイドμ受容体が尿禁制反射を増強することを,弱オピオイドであるトラマドールを用いて報告した.このように,脊髄にはSUIの新たな創薬開発の標的となる受容体が数多く存在する.</p>