著者
花井 一則 中澤 務
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

へブライズムによるギリシア哲学の受容・深化の様相を探り出す作業を通して西欧諸科学の母胎としてのスコラ学の成立過程を明らかにするという所期の目的を達成するために、平成9年度にはテキストデータベースの調査や最近の研究状況の調査などの基礎的研究を行ない、平成10年度にはこうした基礎的調査を整理し総合するとともに、具体的なテーマに即した個別的研究をおこなった。また、個別的研究を総合し、近世諸科学に対するスコラ学の概念的な影響に関して一定の見取り図を描き出す作業をおこなった。中澤はギリシア哲学研究の立場から、ギリシア哲学の基本概念がスコラ学の形成過程でどのような変容を受けたのかについて考察した。特に、ギリシア哲学における真理概念を、プラトンの『プロタゴラス』と『テアイテトス』を主なテキストとして分析する作業と、快楽概念をプラトンの『ピレボス』とアリストテレスを中心に分析する作業をおこなうとともに、スコラ学におけるこれらの概念の受容に関して、主要な哲学者のテキストの調査をおこなった。花井は、トマス・アクイナスにおける真理と善の概念を分析してその特徴を明らかにすると共に、その後世への影響について考察した。また、こうした研究成果をもとに、スコラ学の基礎的概念の独自性を総合的にまとめ、また、それが近代諸科学に与えた影響とその意義についてまとめた。その成果は、研究成果報告書に収録されている。