著者
芳田 なおみ 宮本 忠司 大串 幹 水田 博志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0490, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】鎮痛目的の電気刺激療法には脊髄電気刺激療法,脳深部刺激療法,大脳皮質運動野刺激療法など様々な治療方法があるが,非侵襲かつ簡便さにおいては臨床では経皮的電気刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation:以下TENS)が頻用されている。TENS使用の際には周波数や波形,パルス持続時間,強度や治療時間などのパラメーターや電極位置が効果に影響すると言われ,強度によりAβ線維やAδ線維の活性化,周波数により内因性オピオイド放出に関与すると報告されている。一方,電極位置に関しての報告はまだ少ない。また伝統的に疼痛部位に電極を直接貼付することが多いが,創外固定器や熱傷などの創部状態や幻肢痛などにより直接的なアプローチが困難な場合がある。我々は予備実験として疼痛部位と関連のある遠隔部位に電極貼付することにより疼痛が軽減することを認めた。今回は,同様に疼痛部位に関連した遠隔部位に電極を貼付し,疼痛の種類により効果の発現に違いがでるかを検証した。【方法】対象は当院リハビリテーション部を受診し疼痛を有する患者21名,26部位を対象とした。電極位置は疼痛部位に関連のある経穴もしくはデルマトームおよびスクレロトームとし,対象者ごとにランダムに選択した(経穴群9名12部位,デルマトーム群12名14部位)。また痛みの病態により侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とに分類した。TENSは低周波治療器(伊藤超短波社製,Trio 300)を用いた。刺激はパルス幅50μsec,周波数10Hz及び100Hzにて2つのチャンネルにより電気刺激を20分間与えた。電流は対象者が心地よいと感じるところまでとし刺激強度として記録した。疼痛評価は日本語版Short-Form McGill Pain Questionnaire(以下SF-MPQ)及びVisual Analog Scale(以下VAS)を用いた。SF-MPQは治療開始および一週間ごとに経時的に評価し,各治療前後で即時効果としてVASを評価した。得られたデータは経穴群とデルマトーム群にて病態分類別に治療前後で比較し,また刺激強度についても比較検討をした。【結果】経穴群のうち侵害受容性疼痛は7部位,神経障害性疼痛は5部位であった。一方,デルマトーム群では侵害受容性疼痛は10部位,神経障害性疼痛は4部位であった。治療開始時および終了時のSF-MPQは経穴群の侵害受容性疼痛にて13.0から4.2へ,神経障害性疼痛も10.4から6へ減少した。デルマトーム群においては侵害受容性疼痛が14.1から7.3,神経障害性疼痛は20.3から19.7にとどまった。各治療前後のVASにおいて,経穴群では侵害受容性疼痛は21.4から10.9へと減少し,神経障害性疼痛でも26.4から19.2へと減少した。デルマトーム群においても,侵害受容性疼痛は35.3から19.4と減少し,神経障害性疼痛も43.4から36.9へと減少を認めた。刺激強度については,10Hzで経穴群は28.2mA,デルマトーム群は41.7mAで,100Hzでは経穴群で19.0mA,デルマトーム群では29.4mAでいずれも経穴群が小さかった。【考察】疼痛部位ではない遠隔部位へのTENSは経穴およびデルマトーム両群において疼痛を即時的にも経時的にも軽減させた。侵害受容性疼痛はAδ線維やC線維の終末に存在する侵害受容器を興奮させて生じる痛みであるため,TENSにてそれらを抑制するAβ線維の活性化することにより,疼痛を軽減させたと考えた。さらに,神経障害性疼痛への効果が低かった原因としては,TENSによって生じた内因性オピオイドの放出やAβ線維の活性化が,末梢性や中枢性の神経系の損傷や機能異常がある部位への抑制刺激としてはまだ不十分だった可能性がある。また経穴は少ない強度でも十分な疼痛軽減効果が得ることができたのは,トリガーポイントやモーターポイントと類似した電気を通しやすい部位であるためと考えた。【理学療法学研究としての意義】疼痛部位に直接的なアプローチが困難な場合でも,関連のある遠隔部位へのTENSにより疼痛が軽減することを認めた。選択的なTENSの施行により効果的に疼痛を軽減し患者のQOL向上につながることが期待される。