著者
芳賀 彰子 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.75-86, 2006-01-01 (Released:2017-08-01)
被引用文献数
2

軽度発達障害児をもつ母親の不安, うつと児の障害特性, 社会的不利益との関係を調べた.九州大学病院と関連病院の心療内科外来を受診し薬物治療, 心理面接を6カ月以上受けた軽度発達障害児の母親45名〔注意欠陥/多動性障害(ADHD)群23名, 広汎性発達障害(PDD)群22名〕で, 対照群23名と比較検討した.母親の不安とうつを不安尺度(stait-trait anxiety inventory; STAI), 抑うつ尺度(self-rating depression scale; SDS), 児の社会的不利益をDSM-IVのGAF尺度(The Grobal Assessment of Functioning Scale)を用い, 初診時と治療介入6カ月後に評価した.結果は, PDD群と対照群に比べADHD群は初診時の不安, うつが有意に高く(p<0.01), 児の社会的不利益の改善と母親の不安, うつの変化との間には両群ともに相関はなかった.介入後も不安, うつのいずれかが高いADHD群には, 離婚, 虐待, 家庭内暴力, 母親の精神病理があり, 障害児側の要因だけでなく深刻な心理社会的背景と母親の精神病理が示された.発達障害児を抱える母親には, 二次的併存障害を予防するための心身医学的治療介入の必要性が示唆された.
著者
芳賀 彰子
出版者
一般社団法人日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.293-302, 2010-04-01

発達障害は,遺伝要因と環境要因が相互にかかわりあい発現する多因子疾患ととらえられている.近年は発達障害の発現に負の養育環境とのかかわりが注目されている.負の養育環境要因には,母親の妊娠中の飲酒/喫煙,妊娠/出産後のうつ,不適切なしつけと虐待行動,家族機能不全などがある.シンポジウムでは,知的に正常な発達障害がある母親を対象に心身医療が発達障害治療に果たす役割について母子臨床の視点から考察した.発達障害児を養育中で知的に正常な発達障害がある母親の養育環境は,妊娠中より続くうつ状態,心身症と不安/気分障害の併存,物質使用障害,夫婦間葛藤,虐待行動が,発達障害のない母親に比べ有意にみられた.発達障害がある母親の心身医療へのニーズは高い.発達障害児/者のよりよい未来に向け,負の養育環境の世代間伝達を防ぐために,心身医療が発達障害治療に果たす役割は大きい.