著者
若杉 亜紀 藤野 博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.119-128, 2009-07-30

自閉症児に効果的な補助代替コミュニケーション(AAC)システムとして、PECSが近年注目されている。PECSは自発的で機能的なコミュニケーションを獲得するために有効とされ、その成果が報告されてきた。そして先行研究においては、PECS指導により要求伝達行動が獲得されるとともに、音声言語の促進とコミュニケーション行動の拡大もみられたことがよく報告されている。本研究では、生活年齢7歳の自閉症児1名を対象としPECS指導を行い、標的行動の獲得とそれに伴って音声言語面および非言語的コミュニケーション行動面にどのような変化がみられるかについて検討した。その結果、PECS指導の経過においてフェイズIIIで音声言語表出の増加がみられた。また、要求時に相手に顔と目を向ける行動と笑顔を向ける行動がフェイズIIIで現れフェイズIVで増加した。また、PECS指導場面以外の日常場面においても、学校と家庭の両方で表出語彙の増加と要求時に目が合うことや指差しが増えたことがアンケートの結果から明らかとなった。以上より、PECS指導はカードによる要求伝達行動の獲得とともに、音声言語の促進と非言語的コミュニケーション行動の拡大にも有効である可能性が示唆された。