著者
藤野 博
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.429-438, 2013 (Released:2015-12-20)
参考文献数
57
被引用文献数
1

心の理論(ToM)の発達に関する基礎研究は発達障害の臨床研究と実践に影響を与え,また臨床事例を対象とした研究はToMの発達基盤の解明に向けられた基礎研究の進展に貢献してきた。本論文では最初に,メタ表象操作に関わるToMの概念が自閉症スペクトラム障害(ASD)の社会性やコミュニケーションの問題を認知的な視点から説明できる可能性への期待が発達障害の臨床研究に与えた影響について展望するとともに,この概念が適用できる範囲について問題提起した。次いで,ToMのアセスメント・ツールとして藤野(2002,2005b)が開発した「アニメーション版心の理論課題」の妥当性について示し,これを適用して収集したデータに基づいて,学齢期のASD児におけるToMの発達過程,ToMの獲得と言語力の関係,ToMの問題に対する発達支援における2つのアプローチの有効性と限界,ToMの獲得と精神的健康の問題について論じた。そして最後に,ASD者の側から見たToM研究の問題点について批判的に検討した。
著者
藤野 博
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.63-72, 2013 (Released:2015-02-18)
参考文献数
41
被引用文献数
3

学齢期の高機能自閉症スペクトラム障害児への社会性の支援に関する研究動向を展望し、今後の課題を検討した。初期の研究でのおもな介入法は、会話や他者との関わり方など、コミュニケーションスキルを標的とするSSTに基づいていた。表情理解などの非言語的コミュニケーションや心の理論などの社会的認知の視点がそれに加わり、近年では抑うつや不安などの情動面の問題への認知行動論的なアプローチも導入されている。ほとんどの研究で効果が報告されているが、介入の標的や方法、研究デザインやアウトカム測度などが多様で、特定の介入法の効果に関して一般化できるだけの確実なエビデンスはない。介入プログラムのマニュアル化とコミュニティでの実践に基づくRCTによる効果検証は今後の課題であろう。その一方で、個人の生活史や社会的状況に密接に結びついた個別的な問題に対する形式的なスキル獲得を目指したアプローチの有効性と限界についても議論する必要がある。
著者
大井 学 神尾 陽子 松井 智子 藤野 博 田中 優子 高橋 和子
出版者
金沢大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

某市3公立小学校の全学年児童1,374人のうち、775人について、対人行動チェックリスト(SCDC)日本語版12項目のいずれかにあてはまった169人(21.8%)と、そうでない者のうち約1割にあたる78人について、対人応答性尺度(SRS)日本語版の得点をもとに86人について、CCC-2との関連を検討した。またPDD児10名を含む4歳1ヶ月から11歳6ヶ月(平均生活年齢6歳4ヶ月)の41名を対象としてCCC-2日本語試作版を実施した。田中・ビネー知能検査V、絵画語彙発達検査(PVT-R)、J.COSS第三版、親への調査などを同時に行った。PDD群とTD群の群間比較ではIQ値、CCC-2指標(正値、負値、GCC、SIDC)で有意差があったが、生活年齢、PVT-R、J.COSS、父母の年齢や教育歴などに有意差はなかった。通級指導教室に通級する知的障害のない発達障害の小学生約60名の保護者にCCC-2およびPARSを、対象児にPVTおよびJ.COSS(第三版)を実施した。PARSのスコアから広汎性発達障害の可能性が示唆された児童をASD群に、ASDの基準を満たさずPVTおよびJ.COSSのスコアから語彙および文法理解力に顕著な困難があると評価された児童をSLI群に分類した。ASDにもSLIにも該当しない場合、その他の発達障害群とした。CCC-2の語用に関する領域(場面に不適切な話し方、ステレオタイプ化さわた言語、コミュニケーション場面の利用、非言語コミュニケーション)のスコアを群間で比較し、発達障害児における語用の問題について、特にその障害がASDに固有のものかどうかに焦点を当て検討した。ASD小学生50名にCCCを実施しクラスター分析を行って、4クラスターを得た。
著者
窪田 隆徳 藤野 博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.71-81, 2002-05-31
被引用文献数
3

音声言語表出面に著しい障害をもつ言語発達障害の1事例に対し、voice output communication aids(以下、VOCAと略す)を使用した喫茶店での注文場面の指導と、家庭へのVOCAの貸し出しを行い、コミュニケーション行動および音声言語表出行動における変化を観察した。その結果、対象児のコミュニケーションスキルが拡大するとともに、非音声型のコミュニケーションモード(指さし・サイン・シンボル)から音声型のコミュニケーションモードへと変換がなされ、音声言語表出が可能となった。それまで、学校や施設などで先行・並行して行われていたコミュニケーション指導に加えて、VOCAを使用した伝達場面設定型の指導によって、コミュニケーション行動の拡大と音声言語表出が獲得されたことから、本研究での対象児のような事例に対しては、VOCAを使用した実用的なコミュニケーション指導が有効であることが示唆された。
著者
伊藤 友彦 大伴 潔 藤野 博 福田 真二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

特異的言語発達障害(Specific Languag Impairment, SLI)とは、知的障害や聴覚障害、対人関係の障害など言語発達を遅滞させる明らかな問題が認められないにもかかわらず、言語発達に遅れや歪みがみられる障害をいう。欧米の研究者の間ではではよく知られた用語であるが、我が国ではあまり知られておらず、言語学的掘り下げた研究はほとんど行われていなかった。我々の研究の目的は日本語SLI例の特徴を明らかにするとともに、日本語SLIの評価法を提案することであった。今回の我々が行った日本語の典型的なSLI例と思われる子どもの縦断研究の結果、対象児は欧米の研究でG-SLIと呼ばれるタイプであることが明らかになった。欧米の研究ではG-SLIの子どもは時制、受動文などに困難を示すと言われているが、我々の対象児も同様な困難を示した。我々はさらに日本語SLI3例を対象として、文法格(grammatical case)に視点をあてた実験的研究を行った。その結果、SLI例は、年齢を対応させた正常発達の子どもに比して、格付与(case-assignment)の成績が悪いことが明らかになった。また、SLI群は、通常の語順と異なる、かきまぜ(scrambling)文の成績が著しく低いことが明らかになった。また、我々はアメリカ(アリゾナ州立大学)においてSLIの評価法に関する調査を行い、日本語SLIの評価法を提案する準備を行ったが、日本で行った難聴・言語障害学級を対象とした調査では、SLIの名称そのものの理解が得られないこともあり、日本語SLI例のデータ収集が十分にはできなかった。今回の我々の研究で日本語SLIの興味深い特徴がいくつか明らかになり、日本語のSLIの評価法に役立つと思われる基礎的知見が得られた。
著者
藤野 博行
巻号頁・発行日
2019-06-03

第16回南極設営シンポジウム 2019年6月3日(月)国立極地研究所極地観測棟3F 主催:国立極地研究所
著者
森脇 愛子 藤野 博 生駒 花音
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の児童が適応的な仲間関係構築に至る様相とそれを支える支援法を“過程志向的”に検討するものである。本研究の3つの成果は①ASD児の仲間関係構築を相互作用の変容過程から定量的かつ効率的に把握する最適な評価手続きを精査したこと、②評価手続きを用いた2人組の相互作用量および質の時系列データを活かし、ASD児の関係構築傾向と支援介入の示唆が得られたこと、③仲間関係支援が及ぼす効果が確認されたことである。これらの成果により、ASD児は対人行動の非典型特性を持ちながらも、適切な支援環境下では本人が満足できる親密な仲間関係を構築できるという実証に寄与したと考えられる。
著者
藤野 博行 フジノ ヒロユキ Hiroyuki Fujino
雑誌
九州国際大学法学論集
巻号頁・発行日
vol.18, no.1/2, pp.133-152, 2011-12