- 著者
-
若林 良和
- 出版者
- 愛媛大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2003
本研究の目的は、カツオを漁獲する漁船乗組員たちを漁撈集団、そして、そこでの集団生活を海上生活構造と位置付けて、その移動と交流に着目した実態把握を推進し、その特性を明らかにすることである。漁船の大型化、航海・漁撈機器の高度化、エンジンの高馬力化のなかで、太平洋海域を大きく移動しながらカツオを漁獲する漁船乗組員の生活にっいて、生活史法をもとに検討した。主たるフィールドは沖縄県(宮古島市)、鹿児島県(枕崎市)、愛媛県(愛南町)、高知県(土佐清水市、中土佐町)、静岡県(焼津市)などである。カツオ漁船乗組員(現役者・引退者)のライフヒストリーをインタビューにより収集するとともに、関連のライフドキュメントを確保した。また、併せて、地域社会の基本的な文献・史料も収集して整理した。また、鰹節製造業者、さらには、マグロ漁船乗組員との対比によって、カツオ漁船乗組員の移動と交流の実態をより明確に把握できように配慮した。本研究で得られた知見を概括すると、以下のようになる。1.海上生活構造の生産的局面である漁業労働においては、閉鎖性、随時性、危険性という特殊性がより明確になり、カツオ漁船乗組員は労働規則・慣行上、大きく行動規制されている。特に、海域移動が拡大するに伴い、操業期間が長期化し、労働強化は顕著になっている。2.海上生活構造の消費的局面である衣食住については、漁業労働への従属性が高く、また、海域移動の拡大と航海期間の長期化のなかで、少しでも娯楽性を高めようとする生活の創意工夫が見られる。3.こうした環境下にあるカツオ漁船乗組員は母港への帰港、あるいは、補給地への寄港で、家族との交流、さらいは、地元住民との交流が物心の両面において展開されることが素描できた。この点は質的調査のメリットが遺憾なく、発揮でき、調査手法の妥当性も検証できた。(770字)