著者
苫名 孝太郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.296-306, 1939-06-10 (Released:2008-12-19)
参考文献数
3

(1) 本實驗は,最近試みられた電氣抵抗による土壤凍結測定法を改良して土壤水分の動態測定法を確立せんがために行はんとする試驗の豫備的實驗であつて野外觀測と室内實驗とに分れる。 (2) 野外觀測では,各對の極板(1.2寸×40寸の銅板)を厚1mの土壤を挾んで對立する如く地下0 0, 0.1, 0.2, 0.3, 0.5, 0.7, 1.0及1.5mの深さに埋め,昭和13年夏50日間に亘り各極板間の電氣抵抗を測定した。此結果の概要は第2~第5圖に示されでゐる。 (3) 室内實驗では, A極板(1cm×2cm)及B極板(2cm×4cm)を使用,其間隔を0.5, 1, 2, 3, 4及5cmとし,之を直徑10cmの蒸發皿に充てた土壤a (粒徑<0.5分)又はb (粒徑1~2分)内に對立せしめ,土壤に一定の水を加へて電氣抵抗を測定した。注加水量の各土壤容水量に對する比は1, 1/2, 1/3, …1/10の10種であつた。第1表は其實測の結果である。 (4) 野外觀測から得た結論を述ぶれば i) 本實驗に現はれた電氣抵抗の變化は土壤含水量の變化によるものと斷定せざるを得ない。而して其變化の範圍精密度等は土壤含水量測定に適するものである。 ii) 土壤水分の消長は複雑であつて,一時的測定に基く推定は至難である。 (5) 室内實驗によつて得た結論は, i) 計器に現はれた電氣抵抗中には,極板間隔に正比例する抵抗と之に無關係な抵抗とがあり,(假に前者を土壤抵抗,後者を接地抵抗と呼ぶ。)隨つて下式が成立する。 R=α+βl 〓に R=總電氣抵抗(100Ω), l=極板間隔(cm) α=接地抵抗(100Ω),β=土壤抵抗係數(100Ω) 第2表は,本式に基き實驗結果より算出せるα及βの値を示す。 ii) βが含水量と共に變化する状態は極めて滑かであるが(第6圖及第7圖參照), αは必ずしも然らず,其原因は惟うに實驗上の誤差によるものか。隨つて,成る可くβのみについて比較を行ふことが望ましい。 iii) 第7圖はB極板使用の場合の含水量(容水量に對する)とβとの關係を示したものであるが,此場合a, b各土壤の曲線は一致しないから,斯種含水量とβとの關係は一定のものではない。他の種の含水量(即ち容積・重量・其他に對する)について見ても同樣である。 iv) 尚此第7圖によれば,粒徑の大なる場合は小なる場合よりもβが大きい。此傾向が常に然りや否やは別とし,粒徑によつてβが異ることだけは斷言し得ると思ふ。 v) 上記iii), iv)の事實及土壤の化學的成分から考へて,本法を或土壤に應用せんとする場合には,豫め其土壤毎に含水量とβとの關係を實驗的に求めて置く必要がある。 vi) 極板面積とβとの間には逆比例的關係が豫想せられるも,事實は第6圖又は第3表の示す如くA極板の時のβとB極板の時のβとの比は含水量と共に變化し,此關係を圖示すれば双曲線類似の曲線が得られる。故に更めて極板面積とβとの關係を研究しなければ,室内實驗の結果を極板の異つた野外觀測に適用することは出來ない。