著者
茅根 美保
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.168-175, 2005-09-19

コスタリカの憲法法廷は、2000年3月、体外受精を「人間の生命を侵害する技術」とみなし、それを定めた「生殖補助規則」の違憲性を指摘し同法令を廃案とする判決を下した。本稿では、違憲判決の議論、さらには同国の新聞や「聖書の分かち合い」の会で交わされた違憲判決を巡る議論を通して、体外受精に対する認識を考察した。それにより、コスタリカ政府の「受精の瞬間から人であり、それは不可侵の存在である」という一貫した姿勢を明らかにした。他方、体外受精は、夫婦と親子という関係性による「愛から生まれる行為」と、神と自分との関係性による「悪魔の誘惑にかられた行為」という二つの関係性により捉えられ、人々に葛藤をもたらしていることが明らかとなった。違憲判決以降、コスタリカに対する米国NGOやインターアメリカン人権委員会からの生命倫理のグローバル化の働きかけが高まっているが、それは困難であると同時に慎重でなくてはならない。