著者
茅野 分
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.37-47, 2016 (Released:2020-12-01)
参考文献数
15

“At-Risk Mental State, ARMS(精神病発症危険状態)”とは、精神病発病へのリスクの高い状態を意味する。一見軽症で、注意深く診察しないと一般的なうつ状態などと鑑別できない。精神科診療所へはうつ状態や不眠、不安などを主訴とする患者が数多く受診している。ARMSの具体的な診療について、国内に6000を超えるとされる精神科診療所で共通の認識を得ているとは言いがたい。そこで、銀座泰明クリニックを受診したARMS 3症例、診断基準は満たさないものの可能性ある2症例を提示して考察した。精神科診療所は精神医療の「ゲートキーパー」としてARMS診療、早期発見・早期治療に寄与できる。夜間・土日、駅前・街中など、いつでもどこでも気軽に受診できるのは診療所の強みであろう。高次医療や救急医療を求められる場合は大学病院や精神科病院へ紹介し、良好な連携を取っていくことが望まれる。そのためには、日ごろから大学病院や精神科病院との「病診連携」を高めるため、診療所の医師が学会や研究会などへ積極的に参加し、お互い顔の見える関係を構築・維持することが望まれる。最後に「精神科医」として最も大事なことは「診断」という「ラベリング」ではなく、苦痛を訴える患者に寄り添い、できる限り「援助」を提供していこうとする、「治療者」の「マインド」である。