著者
茅野 政徳
出版者
横浜国立大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は、PISA型読解力育成をふまえ、「主観的読みと客観的読みの融合」をめざし、小学校における文学的文章及び説明的文章の新たな教材と指導法を開発することを目的とした。「主観的な読み」とは、児童が自己を投影し、登場人物の心情を探り、内容理解に役立つ読みといえる。「客観的な読み」とは、作品世界から一歩外に出た視点から作品を捉え、作者の意図をふまえ、解釈・評価に結びつく読みである。この2つが融合し、児童が新たな読みを構築するために取り組んだのが、コンピュータソフトを活用したテキストの加工・編集である。説明的文章では、文章の結末部を削除したテキストを作成し、児童が論の展開をふまえて結末部を書く。それを作者のものと比較することで作者の結末部の妥当性を見出した。また、問いかけや投げかけ、筆者特有の言い回しを抜粋したテキストと本来のテキストを比較し、表現効果について学んだ。これらの学習では、作者と対等の位置に児童がおり、自らの考えを述べるために深く文章を読み込む姿が見られた。また、これまで以上に作者の表現技法の巧みさや論の組み立て方の工夫に目を向けることができた。文学的文章では、推理小説や二人称の作品などを教材化した。このような教材を用いることは、本研究のもう一つのねらいである「受動的な読みから能動的な読みへの転換」に役立った。児童が積極的に文章にかかわり、作者の言葉の使い方や話の進め方に対して意見を述べる姿が数多く見られた。児童の主観的な読みは大切である。そこに言葉を媒介にした客観的な読みが加わることで児童の読みの世界は大きく広がった。受信から思考し、それを発信まで結びつけるためには児童の能動性を喚起する指導法やそれに合致した教材の開発が必要であり、それが着実にPISA型読解力の育成に繋がることを明らかすることができた。