著者
荏原 小百合
出版者
北海道科学大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

サハとアイヌの口琴音文化交流を通じた自然と音楽行為の関係性について人類学的に明らかにするため、本年度はサハ共和国に渡航し調査を実施した。本年度は、自然と音楽行為の関係性を掘り下げるため、ホムス演奏を習得した経緯や、サハとアイヌの初期の交流についてサハのホムス(鉄製口琴)関係者に聴き取り調査を実施した。具体的な調査内容を以下に列記する。1.1991年からのサハとアイヌの口琴奏者間の演奏交流に関して、世界民族口琴博物館創設者・国際口琴センター代表にインタビューを実施した。2.世代の異なる3名の口琴奏者に、ホムス演奏を身に着けた経緯、これまで演奏してきたホムス(製作者である鍛冶師との関係)、ホムス教育についてインタビューを実施した。3.ホムス愛好家に対して演奏技法の習得過程及び演奏活動についてインタビューを実施した。4.世界民族口琴博物館で資料調査を実施した。この調査から、著名なホムス演奏家たちがホムス演奏を習得した経緯や、世代をまたいだ指導の実践、鍛冶師との関わりなどが見えてきた。また、ヤクート・サハ共和国(1991年当時)で、初めてアイヌ民族のムックリ(竹製口琴)演奏を聴いたホムス演奏家や聴衆が、昨日のことのようにその新鮮な印象を記憶していることが浮かび上がり、互いの口琴演奏に接し、音色・楽器の素材の違い・口琴とヒトの関わり・自然を音写する互いの奏法などに深い関心を抱き、互いの地域を訪問し合う相互交流が開始された経緯がわかってきた。本成果の一部を「サハとアイヌの音楽交流」(永山ゆかり・吉田睦編『アジアとしてのシベリア-ロシアの中のシベリア先住民世界』pp.214-233,勉誠出版,2018年)に反映した。
著者
荏原 小百合
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

ロシア連邦サハ共和国におけるホムス(口琴)の伝承に関する調査を行い、人と音文化の関わりについて考察するため、本年は二度サハに渡航した。当初首都と近郊、遠方都市の伝承状況の差異に注目したが、ホムス演奏は村や都市で個別に演奏される他、国内、諸外国でと多岐にわたり、ホムスを巡る人々の動向は、その個々の焦点化だけでは全体像が見えないとホムシストから助言があった。筆者の研究は多角的で実践性も多分に含んだ音を通じた人のネットワークの試みのため(調査では司会や演奏を含む参加型参与観察)、その指摘を反映した調査内容を以下に列記する。1.愛知万博でのサハ文化団のマンモスラボ開会式儀礼、ロシアパビリオンサハ週間を司会等行い参与観察(期間:05年3月18日〜4月3日)。マンモスラボ閉会式同行調査(9月30日)。2.「ヨーロッパとアジアのホムスコンサート」出演及び同行。3.共和国文化大臣と副首相に愛知万博への文化団派遣の意図聴取。4.サハ共和国国立高等音楽院ホムス講師に集中的インタビュー。本調査で明らかとなったことは、共和国政府(初代大統領が1990年代半ば日本を始とする各地に演奏家を連れて回った等)、祭り、学校、コンクール、ホムシスト、国際口琴大会、サハ語によるテレビ、ラジオ放送と広範囲のファクターが立体的・多層的に絡まり合い、現時点で観光や音楽産業と強い結びつきが無くとも、内外からその音世界が強い関心を集める世界でも稀有な状況を浮かび上がらせていることだ。この多層的に出現する音の空間が、互いに絶妙なハーモニーを奏でる現状がこの独自性を裏付ける鍵と指摘したい。また、筆者も会員の北海道標茶町塘路口琴研究会「あそう会」は、会の発足が1991年以来のサハのホムシストとの演奏交流に由来し、演奏・製作技術の創造的な場を持ち続けてきた独自性も指摘する。本成果は『季刊北方圏』131号〜134号等に反映した。