著者
荒堀 みのり
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本研究課題の目的は、単独性でありながら特殊な家畜化を経てヒトの伴侶動物となったネコを対象とし、その行動や遺伝子から、ネコとヒトの関係およびネコとネコの関係がどのようなものであるかを検討することであった。本年度では、研究1として、ヒトが視覚的に示す問題解決法にネコが追従するかを、2つの課題を用いて検討した。両課題とも、ネコがヒトに追従するという結果は得られなかったが、ヒトの存在によってネコのモチベーションが上昇した可能性を示唆した。しかしながら、半透明の装置を用いたため、抑制制御の必要性がネコの追従を阻害した可能性が考えられた。研究2では、集団で暮らすネコを対象として、ネコカフェで飼育されている3集団のネコの社会的インタラクション(親和的行動・攻撃行動)を観察し、毛中コルチゾール濃度を測定した。ネコ同士では嗅覚を用いたインタラクションが多く観察され、本研究で対象としたネコカフェでは攻撃行動はほとんど見られなかった。また、個体ごとに親和的行動を行う回数や受ける回数は異なっていたが、この2つの値の合計と、毛中コルチゾール濃度(長期ストレスレベル)は正の相関を示した。野生動物の社会においてコルチゾールレベルは個体の優位性と関係があるとされており、ネコ集団でもこのような社会システムが成立しているか検討していく必要がある。以上の研究はそれぞれ国内学会で発表された。今後は、様々な指標を用いることや、ネコの祖先種との比較も視野に入れながら、ネコがなぜヒトのペットになるに至ったのかを解明する予定である。