- 著者
-
荒木 令江
- 出版者
- 熊本大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2008
近年、虚血性ストレスによる脳神経系の組織障害が問題となっている。我々は、急性・慢性的な虚血や癲痛性発作等における局所的な脳組織障害の発生に、p53分子を介する脳神経特異的な細胞死へのシグナルが大きく関与していることを明らかにした。本研究では、虚血性ストレスによる脳神経組織障害発生のメカニズムを解明する一つの手段として、p53遺伝子ノックアウトマウスを用いて、虚血性神経細胞死の誘導と、脳神経組織・細胞内のp53の動態、及びp53有無に付随して発現や機能を調節されるシグナルネットワークに関わる分子群を検索/同定し、これらのタンパク質レベルでの構造と機能解析を行い、p53を介して誘導される脳神経細胞死に関連するシグナル分子の検索を行った。p53正常(+/+),ノックアウト(-/-)マウスの総頸動脈結紮による海馬・線条体神経細胞の再現性のある虚血性遅延障害モデルを開発し、各脳組織・細胞のプロテオーム及びトランスクリプトーム解析の方法論を確立した。プロテオミクス融合解析法は、2種類(2D-DIGE法・iTRAQ/cICAT法)のproteomic differential display法を同時進行で行うとともに、DNAチップによるmRNA発現差異解析を行った。現在までに、2D-DIGE法においては、約4000個の全蛋白質から213個の特異的な蛋白質(p53遺伝子の有無に関わる93個、虚血性アポトーシスに関わる53個、p53およびアポトーシス両者が特異的に関わる39個)が検出された。又、iTRAQ/cICAT法による解析においては297個の特異的な蛋白質がp53およびアポトーシスに関わる分子として同定された。さらに、DNAチップ法によって特異的に変動する分子群合計294個(上昇195,減少79)をプロテオミクスの結果と融合させ、これらの結果をシグナルネットワーク解析ソフトに供与して特異的p53依存性のアポトーシスシグナル経路を抽出したところ、caspase9を介したアポトーシス経路に加え、レドックス関連因子群、notch,wint,cadherin,IF等の関与するシグナル系がユニークな経路として検出された。本研究によってp53及び関連分子の神経細胞死に関わるシグナル伝達機構の一旦が明かになり、これらの分子シグナルの活性を調節する薬剤やターゲット分子が、脳神経系組織障害の予防や治療へ応用できる可能性が示唆された。