著者
荒木 兵一郎
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

精神障害者の自立生活と居住環境との関係について、一昨年度はグループホーム居住者を含む在宅精神障害者を、昨年度は自立度が最も低い入院患者と救護施設等の入所者を対象としたが、本年度はそれらと比較するため自立度が高い健常者(学生等38名、高齢者向け住宅居住者76名)を対象に同一の面接アンケート調査と行動観察調査を実施した。調査内容は、当該対象者の基本属性としてのとしての家族構成、障害程度、問題行動や特殊行動の種類と状況、日常生活動作能力(ADL)、生活歴(職歴、入院歴など)などをみたのち、各種の日常生活行為について、これに係わる空間構成との関係をみている。日常生活行為としては、就寝、食事、だんらん、接客、排泄、入浴、家事、および近隣や友人との交流状況や就労状況などについて、その自立度または介護度を3段階の評価基準を設定して尋ねている。平均自立度は想定通り、健常者・学生>高齢者向け住宅居住者>グループホーム居住者>外来患者>救護施設等入所者>入院患者(とくに高齢精神障害者)の順である。しかし健常者だからといっても満点の人はなく、それぞれの生活部面でそれぞれが役割分担したり、社会資源で補なったり、手抜きしたりしている。自分の意思で手抜きしたりするのはいいが、自立や社会参加をしたくても、それが心身の障害によってできない人たちの問題が改めて提起される。とくに高齢精神障害者の場合には、病院や施設内で無為無欲の状況に陥り、ただ死を待つような状況さえもが見られる。これに対応する環境整備の充実を痛感している。