- 著者
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川口 幹子
荒木 静也
- 出版者
- 一般社団法人 日本生態学会
- 雑誌
- 日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
- 巻号頁・発行日
- vol.66, no.1, pp.147-154, 2016
:国境離島である対馬は、大陸の影響を色濃く受けた極めて独特な生態系を有している。島の9 割を占める山林は、その大部分が二次林であり、炭焼きや焼き畑といった人々の暮らしによって形成された里山環境が広がっている。一方で、信仰の力によって開発から守られてきた原生林も存在している。しかし対馬では、急速な過疎高齢化によって里山の劣化が進み、原生林においても獣害や悪質な生物採取により貴重な動植物の生息環境が破壊されている。里山を象徴する生物であるツシマヤマネコも年々数を減らし、絶滅危惧種IA 類に指定されている。そのような背景があって、対馬では、原生的な自然と里山環境とを同時に保全するための仕組みづくりが喫緊の課題であった。市民レベルでは、野焼きの復活や環境配慮型農業の導入など、ツシマヤマネコの保全を銘打ったさまざまな活動が行われている。しかし、これらの活動が継続されるためには、制度的な仕掛けが必要である。ユネスコエコパークの枠組みは、原生的な自然と里山環境とを、エコツーリズムや教育、あるいは経済的な仕組みによって保全する一助となるものであり、まさにこの目的に合致するものだった。本稿では、対馬の自然の特徴を整理したうえで、その保全活動の促進や継続に関してユネスコエコパークが果たす役割について考察したい。